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おはようございます。立海中の2年にして男子テニス部のマネージャーをやらされています筒井です。下の名前は梓です。

マネージャーと言ったら聞こえはいいかもしれませんが、やることは雑用。
つまりあまりオススメはしない。

まぁ何が言いたいかっていうと、苦手な先輩との仕事は苦痛ってこと。


「私ねぇ、仁王くんがかっこいいと思うんだぁ」
「へぇ」


さっきからそればっか。
しかも大分上から目線。何なんですかあなた。私がそんなノロケを聞いて裏やましがるとでも?
馬鹿?

横目で隣の牧野先輩を見たけれども、なんだかなぁ。
口角上げてうっとりしちゃってまぁ。相当あの人が好きらしいですが、あの人あなたのこと嫌いらしいですよ。
っていうか、早く洗え。とは、言えないので。

「…先輩は本当にあの人が好きなんですねぇー」

適当に受け流す。

これが一番手っ取り早い、楽な方法。私、筒井梓はこうやって生きてきた。

相づちに合いの手、相手を誉めれば大概の人間は楽に流せる。ああ、なんてめんどくさい世界なんだか。

「うん!かっこいいよねっ」
「そうですね」

可愛く笑う牧野先輩。
可愛く、と言ってもその顔のほとんどは化粧で隠されている。これなくなったら、この人どんな顔なんだろう。

「梓ちゃんは誰が好きなの?」
「は?」
「だぁから、テニス部の中で誰が好きなの?誰かが好きだから、マネージャーになったんでしょ?」
「………」

にんまり笑う牧野先輩。
さっきの台詞のすぐ終わりに、「私みたいに」なんて声が脳内で再生された。

久々に人を殴りたくなった。

誰かが好きだから?馬鹿言え。好きな奴がいたらマネージャーになるのかよ。
アンタと一緒にするな。

ああ、嫌だ嫌だ。これだから馬鹿は嫌なんだ。

「……いませんよー。マネージャーだって好きでやってるわけじゃないですし。それに心配せんでも仁王先輩なんか好きじゃないですから」
「えー??じゃあなんでマネージャーやってるのぉ?」
「何ででしょー?仁王先輩あたりに聞いてみてくださーい」
「ッ…!」

私がそう返すと、一瞬にして牧野先輩の顔が歪んだ。
多分それは仁王先輩がどうとかではなく、私の言い方にイラッときたから。だってイラッとくるように言ったからね。私。しかも笑って。

多分というか、やっぱり牧野先輩の目当て、目的は「ちやほやされたい」らしい。その外見でそう思うって、なんて人なんだろう。
イケメンに囲まれながら中学生活を送る自分を見たい、いわば…一瞬の満足感を味わいたいんだ。

やめといたほうがいいと思うけどなぁ。イケメンならサッカー部だって負けてないのに。
そこまでテニス部に執着する理由は何だ?仁王先輩?

…いやでも、1人だけに執着して行動を起こす人間なんて私は今まで1人…じゃねーや2人しか見たことがない。
ぶっちゃけこの人がそこまで変質的な愛を持ってるとは思えない。だって色んな人にベタベタしてるし。

要するに、イケメンがいるだけって理由か。逆ハーレム?ご苦労様。

「さー先輩!さっさと終わりにしましょう。チャイム鳴っちゃいます」
「……して」
「え?」
「あたしの分、あんたがしろっつってんの」
「…は?」

さっきとは打って変わった態度。
さすがに私も驚いた。

「…怒ってます?」
「はぁ?なんであたしがあんたなんかに怒らないといけないのよ?」

怒ってんじゃん。

「謝りますから仕事してください」
「イーヤ。あんたがしなさいよ。先輩命令」
「拒否します」
「ッ…!そういう態度がムカつくのよ!」
「……」

感情の起伏が激しいなこの人。

「ムカつく!!あんたも、あの半田も!マネージャーさっさとやめなさいよ!ブス!」
「……」
「どうせあんたもあんなこと言っときながら、どうせレギュラー目当てなんでしょ!?あんたなんかあいつらの眼中に入ってないのよ!」
「……」
「何とか言ったらどうなのよ!!」
「落ち着いて下さい」

妙に静かな声が響いた。そんな私の声を聞いて牧野先輩も落ち着いたらしい。だが顔はあからさまに怒りがでている。

「もういいです。私がやっときます。帰るなりなんなり、お好きにどうぞ」
「ッ…!見下しやがってっ…!」

牧野先輩が目を見開いて、拳を振り上げた。

あ、殴られる。

あいにく早朝、しかも一通りの少ない水道ときた。
んー、どうしようか。迎え撃つかこのまま殴られるか。

よし、決めた。



「はい、ストーップ」



殴られようと決意した瞬間、パンパンという乾いた拍子と同時に声が響いた。

左の、校舎の方向から、やはりというか、あの人がいた。


「イジメよくない、カッコ悪い」


なんて言って不適に笑う、折原先輩が。








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