20-2

「帰るのか」
「うん」
「ちょっと、頼みたいことがある」
「…オイオイ、いきなり何だよ」

ヘラリと笑った。

「クラスで席が隣同士なだけな私に頼み事って。やめといたほうがいいんじゃない?」
「お前しかいないから話してるんだ」
「私だけ?そりゃ随分高評価ですね」

相変わらず、変な奴だ。

ニヤニヤ笑って、思考が変わって、何をしていて何がしたいのかわからない。
折原心亜。

俺はこいつが嫌いだ。

だから、この手はあまり使いたくなかった。
でもしょうがない。
俺と、紗和子のためだ。

「牧野をあいつらのマネージャーにしてくれ」

風が吹いて、髪がなびいた。

折原心亜は一瞬だけ目を見開いた気がしたが、気のせいだったのかすぐ戻り、ニヤニヤと笑った。

「それが頼み事?」
「ああ」
「オイオイ勘違いすんなよな。私は何でも屋じゃない」
「でもお前はそうさせる気だろ。楽しいから」
「さぁてどうかな?」

また風が吹いた。風が強い。

「あいつがマネージャーをしたらお前の楽しみが増える。紗和子もマネージャーをやめて俺と一緒にいられる。いい話だろ」
「さぁてそうかな?」

ちらりとコートをみた折原はフッと笑い、また俺に目を向けた。

「いい話の裏には必ず悪い話がついてくるものなんだよ。
勝者がいて敗者がいるように。
君の論理でいくと幸福を得るのは私たち含め3人。
彼ら全員には不幸。
これ以上ない差別だと思わないかい?
人間はフィフティ・フィフティじゃなければいけない」

「だったら話は安い。
今この状況、状態。
俺は完全にあいつらより下だ。
今あいつらは幸福。なら俺は不幸だ。
紗和子を奪ったあいつらに幸せを、奪われた俺になぜ不幸を?
折原のいう通り人間は平等がいいと思うよ。
だから牧野をマネージャーにさせて、あいつらに俺と平等の不幸を送る。
これ以上ない公平な罰だと思わないか?」

「ああそうだね実にそうだ。
だがその場合牧野さんはどうなる?
彼女がマネージャーをしてしまったら公平な不幸が彼女だけ行き渡らない。不公平だ」

「そうだな考えてなかった。でもお前は考えてるはずだ」

「あららよくわかったね。
不公平はよくないからね、ちゃんと罰を与えるつもりだよ。
幸せと不幸せは紙一重だ」


風がいっそう強く吹いた。

一瞬。
折原と話していたあの一瞬。
あいつの言葉を聞いたとたん、俺の口はすぐ動き出していた。
頭で考えて言うなんてそんなものではなく、何かに乗っ取られ、操られているような、台本通りの言葉がすらすらと出てきた。

何だったんだ、不可解なアレは。

「頼めるか」
「それとこれとは別問題」

クククと笑った。

「まぁ、君が牧野さんをマネージャーにする気があるって事はわかったよ」
「お前、一人で何でもする気か」
「団体行動は苦手分野でね。第一私は裏切り行為を構わずやる。火の粉が降りかかって紗和子さんと一緒にいられなくなってもいいなら君が勝手に私のいう通りにすればいい」
「断る。あと、勝手に紗和子を呼び捨てにするな」
「おっと、失礼」

またニヤニヤ笑った。

「じゃあお幸せに来栖くん。あ、一ついいかな?」
「何だ」
「君は、神様がいると思う?」
神様?
神様って、あの神様か。
まさかそんな下らないことを聞かれるとは思わなかった。

「その神ってヤツが、俺と紗和子に関係しているならいる。関係していないなら、そんなヤツはいない。俺はそう思う」

そう言うと折原はにっこりと不適に笑った。

「素晴らしい答えだね」

何処が素晴らしいんだか。
やっぱりこいつはよくわからない。




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