18

「好きだ。好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ」

そう呪文のように呟く彼。
私を抱き締めながら、私の肩に顔を置いて言い続けた。

「本当だ。愛してる。お前が好きだ」
「…」
「本当は嫌なんだよ。お前が、あんなところで笑ってんの」
「…」
「だから、今だけはこうさせてくれよ」

より強く抱き締めた。
私もそれに答えるかのように、彼、翔也くんの背中に腕を回した。

「ありがとう。嬉しい」
「…何で」
「怒ってるんでしょ?嬉しい」
「…ああ」
「私だって翔也くんしか見てないよ。あんな人たちどうでもいいの。翔也くんさえいればいいの」
「…だったら辞めろよ、マネージャー」

最もな意見だ。でもね、駄目なの翔也くん。

「それは駄目だよ。梓が一人になっちゃう」
「…あのブス」
「私の友達悪く言わないで」

私が怒ったふうに言うと、翔也くんはゴメン、と呟いた。

「っていうか、牧野はマネージャーやんの?」
「え」
「クラスが一緒なだけ」

なんだ、よかった。
だよね、私の翔也くんがあんな女好きになるはずないもんね。

「わかんない。でも仕事はしてる。あとは幸村部長が決めることだし」
「…」

私の口から「幸村」と聞くのが大嫌いな彼は、顔を離した。
思った通りの顔をしていた。

「…もしさ、牧野がマネージャーになったら、マネージャーは3人になるんだよな?」
「そうだね」
「…そんなにいらないよな?」
「…」

あー、何するのかわかった気がする。

「そうなるね」
「……」

とりあえず肯定しておいた。

「翔也くん、お腹すいた。お昼にしよ?翔也くんのも作ってきたからさ」
「ああ」
「教室行ってくる」
「…ああ」

最後にそう言った彼は、目だけ笑ってた。
歪んでる?うん、そうだよ。
私たちは歪んでる。
それが私たちの愛の形。
誰にも壊させやしないんだから。




別段、テニス部のレギュラーだからってそこまで仲がいいわけでもない。
と俺は思ってる。

だから別に干渉する気もないしされる気もない。
だから昼飯時にみんなで仲良く飯食う義理もないってわけであって。

「ほら、雅治行こうよ」
「……」

俺はいつからか飯は一人で食べるべきものだと思っていた。現在もその考えは変わらない。

横でキャンキャンと騒ぐ牧野が非常にうるさい。
一人で行け。俺は知らんから。
「いい。もう半分食っとるし」
「幸村くんが話したいこともあるからって。ね、行こ?雅治」

と、いうより。
俺がいつ名前呼びを許可した。
もうやだ。ほんとウザイ。
授業中も色目は使うわ、香水臭いわ、机をぴったりくっつけてるわ。
あげればキリがない。

「なぁ」
「え?」
「俺がいつ名前呼びを許可した」
「!」

俺がそう言って睨むと、牧野は驚いた顔をしてから笑った。

「駄目なの?」


その言葉が心亜だったらまぁよかった。俺だって心亜にそんな事言われたら了承するし少なからず嬉しい。
嬉しい?何思っとんじゃ俺。

まぁとにかく。
牧野がそんな事言ったから俺の怒りゲージは上昇していったわけで。

「な、え」

気づいたら立ち上がって、牧野に顔を近づけていた。
別にやましいことをするわけではない。
ギロリと奴を睨んだ。

「金輪際、俺を名前呼びするな。虫酸が走る」

場の空気が凍った。
教室にいる全員が全員、俺たちを見ていた。

牧野は目を見開いた。
クソ、だから嫌いだ。

チッと舌打ちをしながら顔を離した。
その反動で心亜を見ることになったか、奴は興味なさげにパンを食べながらスマートフォンをいじくっていた。

興味ないふりを装ってんのか?
いや本当に興味ないのか?

わからないから考えるのをやめて席についた。

そんな一部始終を見ていたクラスの女子は口々に「ざまぁ」とか言ってる。
もっと言ってやれ。
あー食欲失せた。

「あ…ははっ、そっか、ごめんね、じゃあ幸村くんには伝えとくから、またね」

乾いた笑いと一緒に牧野は教室を出ていった。

それと入れ違えで来栖が入ってきた。
彼女の半田から貰ったであろうカップケーキを手にもって。

それを目で流し、俺は弁当にありついた。
塩鮭がしょっぱい。米が多い。本当に食欲失せてきた。




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