17

朝練にはどうやら出たらしく、8時を過ぎたら牧野さんは仁王と丸井と一緒に教室に来た。

とは言っても仁王とは一言も会話を交わすこともせず、丸井と楽しそうにおしゃべりしていた。
それを見ていた丸井のファンは牧野さんを睨んだりヒソヒソ話したりしていたが本人は知ったこっちゃないとばかりに丸井と話をしている。
でも一方的にしゃべるのは牧野さんで、丸井は適当に流している風にも見える。

私?

私は丸井のファンなんかじゃないし、牧野さんのファンでもない。

なぜ見ているかって?

彼らが観察対象者だからさ。

「ニヤニヤしすぎ。何考えてるの」
「いや、イメージトレーニング」
「何それ」

おにぎりを頬張るハチ。
朝からよく胃におさめられるな。

「牧野さんこれからどうすっかなぁ」
「マネージャーするよ。必ず。…いや、させる」
「……いつになくやる気だね」
「だって楽しそうじゃん。ファンも黙っちゃいないだろうし」
「…」

私がそう言うといつになく真面目な顔で、ハチが私を見た。
何か変なこと言ったかな。

「いつも思うんだけど、心亜は一体何がしたいの?」
「は?」
「目的がわかんない。一緒にいるけど考えてることもわかんない。思考がぐちゃぐちゃ」
「……そうだね」




お前、本当は何がしたいんだよ。臨也の真似事か?自分の意志なのか?


やめろよ。お前は「折原心亜」であって「折原臨也」じゃねぇんだ。




池袋にいるとき、ある人物から言われた言葉を思い出した。

その人物から昨日電話がきた時は思い出さなかったのに、何で今思い出したんだろ。


「……」

そうだな……。
あえて、あえて言うなら

「私はさ。手段の為に目的は選ばないんだ」

「……?」
「こうしたら楽しいと思うけど、はっきり、漠然とした目的がないんだよね。なんていうか、あらゆる手段でやってくうちに心理が変わるんだよ。だから、目的なんてないんだ。あるのは手段だけ」
「……ゴメン、全然わかんない」
「だろうね。この感性は私にしかわからないだろうから無理に理解しなくていい。要するに、ね」



楽しさを追及してるんだよ。



そう言って心亜はにっこり笑った。
瞬間、鳥肌がたち、恐怖が渦巻いた。
ああ、駄目だ駄目駄目。
こいつは、駄目だ。敵に回したりなんかしちゃ。

勝てるわけねぇじゃんか。

「……今年一番恐怖を感じた」
「酷いなぁ」

ああ、無理無理。
刃向かうなんて、できやしない。

牧野さんにテニス部。
少なからず私はあなた方に同情します。

横目で彼らを見た。
あーあー無邪気に笑っちゃってもう。

まぁせいぜい、私が言えることは一つ。
喰われないように気を付けな。
私は助け船は出しません。





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