16

嫌も嫌よも好きの内とか、愛情の裏返しだとか。
俺たちには無縁の言葉


「大嫌いだ。だから死ね」
「奇遇だな、俺も手前が大嫌いだ。ってわけで死ねぇええ!!」

静雄の放ったゴミ箱をするりとかわし、臨也はぴょん、と柵に乗った。
チッ、と舌打ちをすると静雄は2投目となる公園に設置されてあるゴミ箱に手をかけた。

「シズちゃんさぁ、いい加減にしてくれない?」

それが投げ飛ばされる前に、臨也は言葉を並べた。

「俺から心亜奪っておいて生きてようなんて虫がよすぎるんだよ」
「ああ?手前のせいであいつがお前みたいになっちまったんだろぉがぁっ!!」

2投目を投げるが、臨也はそれをまたするりとかわす。

「なんで?俺のせいじゃなくない?」
「お前みてぇな奴はお前だけで十分なんだよ!」

無茶苦茶だなぁ。
だからシズちゃん大嫌い。

臨也は歪んだ笑みを浮かべ、静雄にナイフを突きつけた。
だが距離は近くはない。
それを刺すにはあと5、6歩静雄に近づかなければいけない。

「本当さぁ、俺がここにくる理由がシズちゃんを殺す、しかなくなっちゃったじゃん。心亜に会えないなんて本当に嫌だ」
「だったらこなけりゃいいだろーがっ!」

口に加えた煙草を食いちぎる勢いで、静雄はギリリと歯を食いしばった。

「しかもいつから君たち仲良かったの?すごいムカつく」
「それもお前のせいだろうが!」

そうだっけ?と笑う臨也に静雄は怒りが膨張。
コイツまじうぜぇ。

「何言ったのかはしらないけどさぁ、変なこと吹き込むのやめてくれない」
「本当のこと言っただけだ」
「本当のこと言ったらどうしてあの子は神奈川なんかに行っちゃったんだろうねぇ」
「!…」

神奈川?あいつ、神奈川に行ったのか。
確かに池袋にいないほうがいいっつったけど…。

「あれ?知らなかったの?」
「知るわけねぇだろ」
「ってことはシズちゃんあんま信用されてないんだね」

ピキッ。

馬鹿にしたような言い方に、静雄の額に青筋が浮き上がった。
別に信用されようがされまいがどうでもいいが、コイツに言われると本当にムカつく。

「言っとくけど心亜はあげないからね」
「安心しろ、あんな奴はいらねぇ」

そう言うと、臨也はニヤリと不適に笑った。

そうだね、そうだろうね。
シズちゃんは、俺みたいなやつが大嫌いで、俺にくりそつな心亜を嫌っている。

でも、本当は

「…本っ当、ウザイ」
「ああ!?」
「無自覚って一番嫌いなんだよね」
「何の話…」

だよ、と言う前に、ダーツ感覚で臨也が静雄にナイフを投げつけた。
頬を刺される前に静雄は腕でガードしたが、グサリ。
腕にナイフが刺さった。

だが静雄も伊達に喧嘩人形と言われてるわけではない。
ナイフは1秒ももたずに、静雄の強靭な肉体から抜け落ちた。
カラン、と地面に落ちる音がした。

「てめぇ…」

だが臨也はもういなかった。
顔を庇っていたせいで目が見えずにいた静雄を畳み掛けるようにぬらりくらりと、臨也は姿を消した。

心底、うざってぇ。
池袋の夜に、冷たい風が吹き付けた。




『もしもし、俺だけど』
「…オレオレ詐『静雄だ』あ、そう」

いやわかってたよ。
ディスプレイに表示されたし。
珍しい人から電話がかかってきた。

「久しぶり。どうかした?」

『今日、っつーか今さっき。臨也に会った』
「へー」
『お前に会えないとかで八つ当たりしてきやがった』
「そりゃまぁ私に会えないのは静雄さんのせいじゃんか」
『……』

と言うと、向こうはだんまり。

「私が戻れば静雄さんが殺されることもないけど」

『別にいい。池袋には当分くるな』
「わーひっどーい」
『……兎に角、今神奈川にいるんだって?馬鹿やらかしてねぇだろうな』
「うーん、普通?」
『お前の普通は普通じゃねぇ。あんま問題を起こすな』

いやいや静雄さん。
それは無理じゃないかな。
なんたって私は、異端児なんだから。

『……心亜』
「ん?」
『あんま、池袋に、臨也に関わるな。勿論俺にも。お前は、普通に生きろ』
「……」
『これでも俺は心配してんだ』

電話越しだけど、怒った顔をしているのが浮かぶ。

「……関わるなっつっといて電話してくるのはどうかと思うけどなー」
『!だから』
「わかってるよ。心配でしょ、ありがとう」
『!……』
「じゃあまたね。おやすみ。いい夢を」
『……ああ』

電話を切った。

新品のスマートフォンを机に置いて、さっきの静雄さんの言葉を思い出した。

関わるな、ね。
もう無理じゃないかなぁ。


「知りすぎちゃったんだから、ね」


奥の奥の奥のほう。
私は今そこにいる。

そこから抜け出すことは


「…できないだろうねぇ」


満月を見て、誰もいない部屋で私は呟いた。




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