15

「首無しライダー?」

向日さんの言葉にピクリと反応した。
声がした方向を見てみると、向日さんと忍足さんがいた。

「何でも池袋に神出鬼没に出てくるらしいで」
「いや、その前に首無しライダーって何なんだよ」
「一種の都市伝説みたいなモンや。日吉ならくわしいんちゃうか?」
「……まぁ」

話をいきなりふらないで貰いたいが、俺もその話題には興味があるし、知っている。

「黒いバイクに乗ってるんで「黒バイク」とか言われてます。バイク音は馬の駆ける音だとか」
「化け物じゃねーか…」

向日さんがひきつったように言った。
忍足さんはそれを見て面白そうに笑った。

「忍足さんが言った通り、そのバイクの主には首が無いんです。綺麗さっぱり」
「ニュースでも取り上げとったよな。ネットでも話題になっとるらしいやん」
「本当かどうかなんてわかりませんよ」
「ケッ、んなモンいてたまるかってんだよ」

向日さんが言った。
確かに。いたら楽しい。面白い。首が無いなんて、化け物以外の何者でもない。
そういった化け物が、日本に、しかも東京にいるなんて知った時、俺は少なからず感動した。

でも、自分の中には。

そんなものがいるはずもないと常識的に考えている自分がいる。
そう、常識的に考えて。やはりそういった類いのものはいないのだ。
だが、俺は少なからず期待もしている。いたらいいな、みたいな。でも、いてもいなくても、俺には多分関わりのないことだと思う。
なぜなら、そういった者に巡り会える者は、ごく一部の人間だけなのだから。




なんでボールに空気なんて入れなきゃいけないのよ。
普通、こういう時ってレギュラーの練習を見たりするものじゃないの?

何だかもう疲れた。というか、飽きた。イライラする。
愛されたいけど、それさえめんどうになってきた。
私なんでこんな弱気なんだろ。

「……」

倉庫に一人、ボールに空気を入れてる自分が惨めに見えてきた。
ああ、もう、何なのよ。
誰も私を見てくれない。
幸村も真田も柳も仁王も柳生もブン太もジャッカルも赤也も。
ムカつく。
何がいけないのよ。

愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい。


「牧野さーん」
「!?」

後ろを振り向くと、速水マツリがいた。
何コイツ。

「いやぁ、偉い偉い。マジでマネージャーしてんじゃん」
「何よ、何か用?」

ムカつく。こいつ。
ヘラヘラ笑って近づいてきて。
何がしたいのよ。

「いやぁ、ね。朝はごめんねぇ、酷いこと言って」
「全くよ」
「だから謝りにきた」
「時間の無駄よ。早くいなくなって」

私がそう言うと苦笑いしながら腕組みをした。でも次の瞬間、冷たく笑った。

「それ、仁王にも言う?」
「!」
「物好きだね、あんな奴好きになるなんて」
「違う」
「え?」



「私は、みんなが好きなの。仁王以外も全員好きなの。彼らも私の愛に答えるべきなの。愛されるの、私は」



「……」
「そのために…ここに来たのよ…!」

そうよ。
愛されるために、来た。

「わかったら、出ていって」
「……歪んでんね」
「は?」

何か言ったようだけど、聞こえなかった。

「まぁ頑張って。じゃね、また明日」

それだけ言って、速水マツリは出ていった。
少しして、柳生がやってきた。

「ボールを持ちにきました。いいですか?」
「あっ、うんいいよぉ。はい、これ」

ボールの入ったかごを渡すと、柳生は御礼をして行ってしまった。
もういい。構わない。

愛させてやる。




「電波だった」
「…意味がわからない」

ハチが帰ってきて、開口一番そう言った。
多分牧野まなかのことだ。
電波だったんだ。
知ったこっちゃないが。

「さっさと帰ろ。お腹すいたし」

私に預けた大福を全て胃におさめて、ハチはあくびをした。

そろそろ始動しようかね。







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