14-2「携帯真っ二つ。女子中学生の握力でもこんなになるんだねぇ」
ハチが、私の壊れた携帯を見ながら言った。
それはもう見事に画面とキーがバラバラになっていて、くっつく気配はない。
当たり前なのだけど。
「今日買いに行く。今度はスマートフォンにする」
「それなら壊れないだろうね」
どこで手に入れたのか一口サイズの大福を食べながらハチが言った。
ほんとお前はよく食べるな。何かを食べるハチを見るたび思うけど、わざわざ言う必要がないので私はあえて無視している。
「食べる?」
そんな私の視線に気づいたのか、ハチが袋を差し出してきた。
「ありがと」
一つもらって口の中に放り込む。いちごの味がした。
「牧野さん、今マネージャーしてるって。見に行く?」
「珍しいね。自分からなんて」
「いやぁ、今朝悪いことしちゃったからさぁー。謝りついでに」
朝、ハチは牧野さんに失礼極まりない発言をしてしまったらしい。
相手を傷つけることを言うのはやめろよな。私が言うなって?はは、そりゃ正論だ。
でもこっちだって正論を言ってるつもりだし、理由がなければ暴言なんてはかない。
一応これでも常識はある。
ただ、一般人と少しかけ離れてるだけ。
「いいよ、行こう」
「さんきゅ」
相変わらずギャラリーはいる。
君たち早く帰ったほうが有意義だよ。
「ほんじゃ、ちょっと探してくらぁ。これ持ってて」
残り少ない大福を私に寄越して、ハチは牧野さんを探しに行った。
大福をつまみながら、どこか座れるところを探す。
が、特になし。
仕方なく木の下に座りこんだ。虫とかいそうで嫌なんだよね。
まぁ涼しいからいいか。
辺りに人はいなかったが、20メートルくらい先に男子生徒がいた。
黒いベストを着てるところを見ると、どうやら隣の席の来栖っぽい。
テニスコートを見ている。
何してんだ……って、ああ、アレか。マネージャーの子か。
わざわざご苦労なことだ。
彼女が終わるまで待ってるなんて、彼氏の鏡だね。
何故か口元がゆるんだ。
必死すぎて笑えてくる。これだから恋やら愛やらは見ていて飽きない。
噂じゃ彼は、自分の彼女を束縛しているらしい。別に悪いとは思わない。それも一種の愛の形だ。
愛にはいろんな形がある。
彼のはちょっと、歪んでいるだけのことだ。
そんな歪んだ愛故に、彼はテニス部を快く思っていないらしい。同じクラスだが、仁王と丸井に話しかけられると一瞬顔を歪めたり睨んだりしている。
また、あの幸村精市のことが大嫌いらしい。
まぁ、いいことではないのかね。
「人間なんて好いて好かれて嫌って嫌われる生き物なんだ。他人が好きでも自分が嫌いなら、その道を貫けばいいんだから」
ニヤリと笑って、少女は独り言を呟いた。
愛<欲
一途≒狂愛
だいたいそんなもんなのだ、恋愛なんて。
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