12

非日常との出会いが、私を変えた。

つまらない。毎日思ってた。朝起きて食べて勉強して寝る。つまならい、くだらない。何でこうなんかな。
漫画みたいに突然変異で私に不思議な力があったらよかったのにと思ってた。
待ってるだけじゃ始まらないというから、私は生徒会長になった。なんか楽しそうだったし。でも期待はずれ。
この学校の生徒は優秀すぎて問題をおこさない。
あまりに暇だから自分からいじめを仕掛けようかとも思ったがめんどくさい。
バレたらアレだし。

「あー……ほんっと、つまんねぇなー……。あの転校生、なんか問題起こさないかな」

給水塔にねっころがった。空が青いぜ泣かせるね。
っていうか、転校生の折原さん…だっけ?
アミ達に何したんだろ。あいつらはクラスでも主導権握ってるしなぁー。私にゃ敵わないけど。
まぁどうせ可愛い喧嘩だろ。私のでる幕じゃねぇか。

「非日常…って、何なのかねぇ」

例えばだけど、今私のいる屋上にいじめる奴といじめられる奴がやってきてワイワイガヤガヤしないかなぁ。

「なに考えてんだよ!」

何ってあれだよ。私の願望だよ。ほんとなんか起きないかなぁ。ちょっと君、なんか起こしてよ。

「なんとか言えよ!」

うっせーななんだよ。
私はいま妄想に浸ってんだから邪魔すんなっての。
ヒーローの登場シーンのように飛び出そうかと思って下を見た。

「じゃあ、死ねよ」

聞こえたのは綺麗な声。
およよ?
アミ達と折原さんじゃないか。何これカオス。いやちょい待ち。
死ね、つったよね。

「死んで償え」
「!」

うわ、かっけー。ハサミ持ってるし。

「でも人殺しは嫌だな。消えて」
「な、ん」
「私に楯突くならこれくらい覚悟しろよ」

え、やばくない?これ、所謂、いじめ?
身を乗り出して現場を観察していると、電光石火、折原さんがアミの髪をハサミで切った。いや、切ったっつーか、そりおろしたというか。
だって振り上げただけで切れたし。

「……!!」
「なーんて、ね?」

意地悪そうに折原さんがいうと、アミはその場に崩れた。アミ!と叫んで駆け寄る女2人にハサミを向けて折原さんは多分、笑ったんだと思う。

「ありがとう、短い間だったけどすごく楽しかった。私は大満足した、だから」

ヒィッ、と悲鳴がもれるその前に、折原さんはハサミを構えた。

「安心して死ね」

それだけ聞くと、放心状態のアミを急いで立たせて、3人は屋上から出ていった。

極悪非道、弱肉強食。

それが非日常を望む私の目の前で起きた出来事である。
いやはや、これはこれは…。

「……えげつないな」

ポツリと呟くと地獄耳。折原さんは体をそらし、私を見上げた。

「君だって。覗きなんていい趣味してるね」

あ、やっぱり気づいてた。なんだかそんな気がしたんだよねぇー。

「なに?君も私に刃向かうの?」
「まさか。滅相もない」

まさか、転校生のこんな一面を拝めるなんてね。まぁ何だっていいけど、そのハサミの構えやめてくれないかな。

下に降りる気配を伺ってたけど、なんだか逆に降りずらくなってしまった。

「……君は、今をつまらないと思ってる口だろ」
「!」

見透かしたように言う。

「…そうだね。つまらない。出来すぎた世界だと思う」
「……」

折原さんは静かな笑みを浮かべ、私を見上げた。
私も折原さんを見つめた。

「…でも、折原さんが来て変わったよ。さっきのすごい面白かった」
「そりゃあよかった。君変わってるね」
「そんな私に好かれたあなたも変わってると思う」
「そうかもね」

まるで何もかもわかっているような目をしていた。これで私と同い年。不思議な気分だよ。

「……ねぇ、変わり者同士仲良くしない?」
「あいにくだけど、仲良しこよしは苦手なんだ。大体君には君を慕う人間がいるんじゃないの?」
「私だって仲良しこよしは大嫌いだ」
「へぇ?」
「でも、君といたらこれから先もっと楽しいことが起こる気がする。私を利用していいから、私を楽しませて」
「……」

折原さんは笑った。ニヤニヤと。
まるで、そう言うのを待ってたよ、なんて言いたげな目で。

「いいね、いいよ君。こんな人は初めてだ。生徒会長という素晴らしい権力者とコネができて嬉しいなぁ」

そういうと、ハサミを持っていない方の手――左手を差し出した。

「!」
「私は君を利用して楽しませてもらう。でも君が危険な目にあったとしても私には関係無いし助けはしない。君は私に見返りを求めるな」
「……」
「それでいいなら、私は君を受け入れる」
「……」

拒むことはできない。
仮面を被った道下師に、私は魂を奪われたのだ。


「一緒に非日常を謳歌しようじゃないか。ねぇ?」


怪しく笑った心亜の手を私は取った。

来る者は構わないが、去る者は決して許さない。そんな道下師――折原心亜から逃れようとは思っていない。
何故か、そんなの簡単だ。逃げられないから、だ。





「つまり私達はお互いを利用しあってるのさ。だからお互いが死のうが泣こうが知ったこっちゃないんだよね。でも私は心亜が好きだし、いなくなったら寂しいしから心亜に味方してる。心亜が、自分でも認識できないくらいに大切な存在になってるんだ。そうなると私は心亜を友達だと思ってることになるけどあっちは利用する人間の1人、みたいな感じに思ってると思う。私とお金どっちを取るかとか聞かれたらあいつは間違いなくお金を選ぶね。でもね、牧野さん」

息継ぎの暇もなく言葉を繋ぐ。

「私は心亜が大好きだ。君が心亜を傷つけるならその時私は君を許さない」

そう言って笑顔を向けた。

「歪んでるよ。私達はね。でもこれを壊そうものなら容赦はしない」
「……!」

驚愕してるのかな。そうだよねぇ、こんなの狂ってるとしか言いようがないよねぇ。でもね、私はいいんだよ。

「もう一つ教えてあげる。昨日の部活の時だっけ?私もその場にいたよ」
「なっ…!」
「なんで言わなかったのよ?ってか。だって面白そうだったから。結果私と心亜の関係を話すことになっちゃったね。まぁいっか」

あはは、と笑ったら睨まれた。おお怖い。

顔を耳に近づいて、小さな声で言ってやった。


「嘘つき少女」
「…!!」

すると牧野さんは私を押して、足早に教室を出ていった。
んだよつまんねーの。

「…ま、頑張れ。逆ハー狙いの嘘つき少女よ」

彼女が出ていったドアを見ていたら、見たことある人が来た。

「おー心亜。おはよ」
「…さっきすごい勢いで牧野さん階段降りてったけど、なんかしたの?」

その様子じゃさっきの会話を聞いていなかったらしい。てっきり盗聴してるかと思った。

「私が思う『愛』について語っていたのだよ」
「キモい」
「ひどっ」

一蹴して席についた。前から聞いてみたかった事について聞いてみようと思う。

「心亜はさー」
「うん」
「私のこと、友達だと思ってる?」
「……」

教科書を出す手が止まった。予想外だったらしい。
でもすぐにまた動いた。

「…どうかな。お金と比べればお金を取るけど」

うわやっぱり。期待通りで悲しいわ。どうせ一方通行な思いですよ。

「…でもまぁ」
「ん?」
「大切には思ってるよ」
「!」

いつもみたいにさらりと言いのけた。
この時の私の言う言葉は決まってる。

「…嘘でしょ」

笑って言った。
すると心亜はまたニヤリと笑った。

「さぁ、どうかな」
「…え、本当に!?」
「さあ?」

また笑った。




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