07

君からの電話は、何かが起こる前兆。

ちょうどお昼を食べ終えて、波江のいれた麦茶を飲みほした後、俺の携帯が鳴った。
画面を見なくてもメロディで相手が心亜で電話だとわかる。
波江はメロディを聴いた瞬間、一瞬顔を歪めたがすぐ書類をまとめだした。
携帯をみると、ああやっぱり。折原心亜の文字。

「もしもし?」
『あ、出ないかと思った』
「ひどいなぁ。妹からの電話を、そんな無下に扱うわけないじゃないの」

これは本当。
なぜすぐ出なかったのかというと、妹から電話がかかってきたという事実が想像以上に幸せだから。

「で?新しい学校は?」
『どうかなぁ。面白いのは今のとこまだ。でも面白いことなら起こりそうかな』
「へぇ。もしかして、虐められてる?」
『もうそろそろかわいい虐めが起きるね』
「おお怖」

勿論これは本音ではない。
無論、本音ではないから言える冗談だ。
心亜が強いとわかっているから言えることなのだ。
生半可な強さじゃないから、俺はこうして心亜を見守ってあげられる。

そう、心亜は強いのだ。

兄の俺と、対等に張り合えるくらいの力がある。
俺の中じゃ敵に回したくない相手No.1に入る。
シズちゃん?ああ、あいつはもう敵だとかそういうレベルじゃないから。

「今日が入学初日でしょ?普通に楽しくやればいいじゃん」
『兄さん譲りの性格上、普通ができないってことはわかってるよ』
「ははっ、確かに」

椅子をくるくる回す。うーん、今日もいい天気だ。

『池袋はどうなの?静雄さんは?死んだ?』
「残念ながらまだ殺せてないなぁー。ねぇ心亜、俺とタッグ組んでシズちゃん殺らない?」
『それ妹に言っちゃ駄目だよ。残念ながら人殺しは御免だね』
「つれないな、相変わらず」
『お互い様。…でさぁ兄さん』
「……」

声がワントーン下がる。また頼み事かな?
さて、今回はどんな無茶ぶりなんだか。

『前くれた、盗聴器みたいなやつあったよね』
「?…ああ、アレか。アレが何?」
『あれ、あともう2、3個欲しいんだけど。余ってない?』
「ああ、いいよ。もしかしなくても使ったの?」
『使った使った。多分今頃証拠をばっちりおさめてるんじゃないかな?』

くすくす笑った。ぬかりないな、この妹は。

「ぬかりないな。兄貴ながら戦慄するよ」
『よく言うよ。妹の部屋に21個盗聴器つけやがって』
「あれはただの実験だよ。結局バレなかったし、おかげで十分すぎるくらい事が上手く進んだし」
『ま、どーでもいいけど。とりあえず近々貰いに行くから』
「はいはいいらっしゃい」
『じゃあそろそろ切るね。多分もういい感じに机の上がズタボロになってるんじゃないのかな』
「最近の子はおっかないねぇ」
『ゆとり教育の賜物だよ。じゃ、そろそろ切るね』
「はーい、またねー」

プッ ツーツーツー…

聞こえてくるのは無機質な音。
心亜が切ったのを確認してから、臨也は耳から携帯を離した。

電話終了。
電話って、かかってきたら嬉しいけど、切られた瞬間一気に悲しくならない?俺なるんだよね。

「なに気持ち悪い顔してんのよ気持ち悪い」

それまで黙っていた波江が嫌味たらしく話しかけてきた。

「波江だって弟くんとの電話が終わったらこんな感じじゃん」
「あなたと一緒にしないで頂戴」

いいや、一緒だね。
俺もアンタも、依存してるんだから。

臨也は携帯を見て、フッと笑った。






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