06-2

声がしたほうを向くと、折原が後ろの教室のドアに背もたれていた。

「あはははっ。まさかここまでしてくるとはっ…ははっ!」

心亜の後ろのドアが閉まった。カチャリ、と鍵をかけた音がする。何する気だ。

一通り笑い終えたら、心亜は自分の席に近づいた。

「いやぁ…君たち想像以上に派手な事するし予想以上に馬鹿みたいだね」

そう言って、机の中から何かを取って、着ていたパーカーのポケットに入れた。
何じゃ?見えん。

「さてと……。これやったの誰?今名乗れば許せるけど?」

不敵な笑みをクラス中に見せた折原。
その笑みを見て、承知ではすまない、すまされないだろうと犯人X以外は理解しただろう。
犯人Xであろう女子3人は今なおクスクス笑っている。早く謝れアホ。

これがもっとかっこいいヒーローなんかがいたら「俺がやったんだ」なんて名乗るだろうが、あいにく俺はそこまでお人好しじゃないし、器が大きいわけでもない。
クラス中がはりつめた空気になり、その場から逃げたい者もいるだろうが、あいにく折原はそれを許さないらしい。

さっき鍵かけたのはそれでか。前のドアの近く、というより教室の前にいる人間は少ない。
前のドアから出ようとしても実行するにはあの一人笑っている女子と対等の精神力がいる。

つまり、逃げられない。どうする気じゃ、折原心亜。

心亜はクックックと笑い、近くにいた女子に話しかけた。

「ねぇ、これ誰がやったの?」
「し、らない」

女子は目をそらした。

「本当に?」
「う、ん」
「嘘だぁ。君教室にいたでしょ?」
「!」
「さぁ言って。大丈夫、君には場合によっては痛くしないよ。見てただけでしょ?」

なんて言いながら距離を詰める。
それに逃げる女。

後ろにさがって、とうとうドアに差し掛かった。逃げるのは簡単だ。さっき折原がかけた鍵を外せばいい。だがパニックになっているのかそれに気づいてない。

クラスの皆に助けを求める女に、折原は「ほら言ってよ」と黒い笑顔で詰め寄る。
だが女は頑なに口を開けようとはしない。出るのはああ、だとかうう、とか。概ねバレた時の仕返しが怖いのだろう。
だがそんな心配をすればする程、女はそれ以上の危険に襲われているに違いない。
最後のチャンスだ、と言う折原に、女は涙目で訴えたことだろう。

「い、えない、の」

怯えた声でそう言った。はっきり聞こえた。

「……」

折原は近づけていた顔を離した。
顔も多分笑っていないだろう。でもそんな簡単に、奴が手放すとは思えない。

「……ねぇ」

冷めた声、今度は折原の声がはっきり聞こえた。背の低いその女子と目線を合わせるため、折原は屈んだ。

「じゃあ、君がやったってことにしちゃうけど、いいかな?」

は?


クラスの奴ら全員が目を丸くした。

「あ、もしかして、やった人は知ってるんだけど私が代わりに怒られます!っていう設定?それはすごいね、素晴らしい!じゃあ決定。君が犯人だ」

ビシッ、と指を突きつけられた女。
弁解する暇もなく、女は犯人に下手あげられた。

「さてさて、私は実は根に持つタイプでね。しかもやられたら倍返しとかじゃなく、自分の気のすむまでやらなきゃ気がすまないんだ」

頭を整理する時間も与えずに折原は喋り始める。

「相手によるとか、そんなもの私の中にはなくってね。親だろうが兄弟だろうが他人だろうが教師だろうが私はいつだって気のすむままに仕返ししてきた」

そして顔を離し、ポケットに手を突っ込んだ。

「だから、仕返しする」


ガンッ――!

何かが砕ける、いや突き刺さる音がした。

見てみると、折原が思い切り腕を振り上げ、手の中にある物を、女に向けて振りかざしたらしい。

だが命中したのは女ではない。女の顔の、数センチ離れた教室のドアに突き刺さった。

それは、ハサミだった。多分、あのポケットに入っていた。

折原はなおも顔を近づけて言う。

「ねぇ怖い?でも仕方ないよね。目には目を、歯には歯を。私と同じ痛みを味わえよ」
「あ、ゃあ、」

泣き声に変わる声、悲鳴。
またぐい、と顔を近づける。

「泣けば許すと思った?誰かの身代わりになれば見逃してくれると思った?あいにく世界はそんなによくできてないよ。私が温厚に見えた?残念、私は異端です」

次にハサミを女の目に近づける。

「つまり、君が全て悪いんだ」
「…い…や…!!」

空いていた左手で、彼女の頭を掴んで固定させる。

「嫌なんて言ってんじゃねーよ。お前がやったんだろ?許さねぇよ」
「あ……!」
「言ったよな?最後のチャンスだって。気がすむまでやるんだって、なぁ?」
「……!!」

この時やっと気付いた。
こいつは、簡単に、人を壊せる。

「逃げられると思うなよ」

ハサミの刃が女に向けられる。

やばい。
やばいこれは、やばい。まずい。
笑い事、他人事じゃすまなくなってきた。


「違うっ…私じゃない!!あの3人がやったの!!!」


二人に近づこうとした俺の右足より前に、女が泣きながら叫んだ。
あの3人を指差して。






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