03-3

「てなことがあって、今転校生と女王は校内を徘徊中です」
「…本当か?」
「本当」

柳は信じられないといった様子だが事実である。
折原心亜は、確実に何か企んでいる。速水はそれをわかっているのに、自ら進んで奴に貢献する。
なんて落ちぶれてしまったんだ、我が生徒会長は。

そんな柳の心中も知らず、速水は楽しそうにプリントをホチキスで止めた。

「可哀想にね、転校生。心亜の餌食になっちゃった」
「餌食?」
「転校生にとってはからかう対象の人物だとしても、心亜にとっては壊れるまで遊ぶ玩具なんだよ」
「……わかりやすい説明だな」
「我ながらよく例えられたと思う」

今の話を聞いてる間に、教員全員に配るパンフレットは全て作り終えた。

「今日占いでさ、かに座が1位だったんだよ」
「そうか」
「だからもっと面白いことが起こりそうなんだよね」
「どうだろうな。世の中そんなに甘くないぞ」
「いやいや絶対起こるって」

どうだか、と柳が返事をする前に教室の扉が開いた。

「失礼しまーす」

聞き覚えのある声がした。
教室に入ってきた生徒をみて柳の目がうっすら開いたのを、速水は見逃さなかった。

「やぁ柳。久しぶり」

柳がいた。
相変わらず背が高い。

「折原…」
「あれ、どったの心亜」
「実はさ、転校生の牧野まなかさん、男子テニス部のマネージャーになりたいんだって。ハチ、なんか書類の手配してあげてよ」

私がそういうと柳は顔を上げた。予想外の出来事に驚いているらしい。

「残念だけど、マネージャーは部活の部長の許可が降りればできるんだよねぇ」
「えっ、でも彼はテニス部の人ですよね?」

牧野さんはすっとんきょうな声をあげたが多分これも演技だろう。
柳は立ち上がり、腕組みをする。

「ああ。だがマネージャーはもう間に合っている」
「あ、テニス部マネージャーいたよね。二人くらい」
「へぇ、じゃあ無理っぽいね牧野さん。残念だけど他の部活をあたりなよ」
「なっ、なんで部長に聞いてもいないのに、そんな、駄目、って」

きたきた。
言うと思った牧野さん。食い下がらないのが君の長所であり短所だ。
利用しない手はないよね。

「不憫だねぇ、実に不憫だ。柳、幸村に聞いてあげなよ。ダメ元でさ」

私がそう言うと、隣にいた牧野さんは驚いたのか、私を見た。
柳も驚いたみたいだけど、こっちは驚愕、と言ったほうが正しいのかもしれない。

「折原…」
「聞くだけ聞いたら牧野さんも諦めるよ。あ、そうだ!一度幸村にあわせてあげたら?じゃあ後は当事者の問題だよね、私はもう教室に戻るよ。じゃあね柳」

営業スマイルをぶちかまし、早々と教室を後にした。
返事?そんなの聞いてどうする。残された三人?そんなの知るか。
始まった。
駒はそろった。

「楽しみだなぁ、楽しみだなぁ。これからどうなるのか実に楽しみだ」

自然と笑みが浮かぶ。

馬鹿兄貴に似てきたなと思いながらも、私は教室に戻っていった。





top
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -