03-2

朝早弁したというのに、ハチはまた弁当を食べている。
しかも、今朝のと比べるとかなり大きい弁当箱だった。

「胃袋どうなってんの?」
「よく言われる」

会話になっていない気がする。

「…見てるだけで腹が膨れるよ」

呆れながら言うと、ハチはその間にシューマイを胃に到達させた。

「そういう心亜はいつもパンだね」
「甘いのが好きなんだよ」
「へぇ」

そう言ってメロンパンを食べると、ハチは唐揚げを口にした。

遠目に牧野まなかを観察すると、適当につかまえたであろう女子と一緒に食事をしていた。
隣の席の仁王はというと、前の席の男子と丸井と食べている。
そんな仁王の様子を気にしているのか転校生は、ちらちらと仁王に視線を送る。
それを見てひどく可笑しいと思うのは、可笑しいことなのだろうか。

「謝りにこないから、許せないなぁ」
「許す気ないくせに」
「そうだね。例え謝っても許しはしないだろうね」

だって、許したら終わりになっちゃうからね。

「ねぇ、マネージャーになると思う?」
「どうかな」

この場合のマネージャーは男子テニス部のマネージャー。
テニスに興味があってミーハーな彼女がどう動くのか。
楽しみで仕方ない。

「顔だけで判断するなら、テニス部は嬉しいだろうね」
「そう?」
「可愛くて甘え上手なマネージャーなら、部長も喜ぶんじゃないの?」
「どうかな…。ま、男子は単純だし案外コロッといくかもだけど、幸村は手強いよ多分」
「ま、どーでもいっか」
「話ふっといてそれかよ」

メロンパンを食べ終えて、コンビニの袋にゴミを入れた。
ハチも食べ終えたらしく、弁当箱を片付けている。

ゴミを捨てるため教室の前のごみ箱に行くのにわざと牧野まなかの隣を通った。
すると、誰かに腕をつかまれた。

誰だか安易に想像できる。

「…あ、…の…」
「…なに?」

牧野まなかだ。一気に場が凍った気がする。
仁王と丸井はこっちを見ていた。
何かな転校生。牧野まなかは箸を置いて立ち上がり、つかんだ腕を離した。
何がしたいんだと思ってちょっと意地悪しようと思い、私はその場を離れごみ箱に向かった。

「ちょっ、待って!」
「…なに?」

朝と同じように笑ってみたら、一瞬睨まれたがまたうつむいてもじもじし始めた。

「朝、は…ごめんなさいっ、まなかが謝らなかったから…」

まさかの自分を名前呼びですか。猫かぶるの、必死すぎじゃないの君。

「うん、で?」
「!だから…」

返事をしたのだが、本人からしたらマニュアルと違っていたらしい。
ごめんね、いいよなんて言えるほどお人好しじゃないんだ。

「うん、そんなまなかちゃんが私に何の用かな?」
「あ、の…ね、その…」

いいよいいよ。待つぐらいはしてあげるから、待っててあげる。
兄さんなら「早くしなよ」なんて言ってナイフを突き立てるだろうな。生憎私はナイフを持っていないから、そんな非道徳な行為はできないけど。

牧野まなかは目一杯の演技を私に見せつけてきた。

「こ、校内を…案内してほしいなぁ、なんて」
「えー、私が?なんで?君を危うく殺しかけたのに」
「だ、だって…と、友達になりたい…から」

図々しいなぁと内心思う私を、ハチが遠くで見ていた。目が合うと右手を出して親指を付き出した。口も動かす。何が「グッジョブ」だ。はぁ、とため息をついた。

「残念ながら、私は今友達募集中じゃないんだ。他当たってくれる?」

そう言い放ってニコッと笑った。
どこかで椅子を引いた音がした。ハチの方を見ると、案の定口元を手で押さえてニヤニヤ笑っていた。あーあ、ロクな奴じゃありゃしない。
その他大勢は見て見ぬふりをしたり、気づかれない程度に盗み見したり。

「ッ…!」

クラスを見渡した後で牧野まなかの顔を見ると、泣く、というより怒りで顔が赤い。
でもごめん。
ここで突き放したら、面白くないよねぇ。
ニヤリと笑った。

「なんて言ったら、また喧嘩になっちゃうねぇ。いいよ、友達にはなりたくないけど校内の案内くらいはしてあげる。ああ、私って優しい」






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