66-2

「あ、そういえば。前もこんなことあったよねぇ」

昔のことを思い出した俺は、それを掘り起こすように記憶を辿った。
心亜が紙を折って、じっと見つめ返してきた。忘れたとは言わせない。俺は目を細め、ストローのゴミを机上でくしゃくしゃにした。

「あの時も確か…変な人がいるから調べてくれって言って、俺を頼ってきたよね。名前は確か…」
「本城」
「あ、そうそう。本城。あいつも人を殺してる、とか言って。結局なにも出なかったんだよね。でも事件を起こした」

ぐしゃ、と、一際大きく、ゴミを握り潰した。

「あれは後始末が大変だったなぁ…。心亜とも離れ離れになっちゃうし。心亜が目をつけた人間って、必ずどうにかなっちゃうよね。今回も、前回と同じだったりして」
「あのさ、それ以上あいつの話しないでくれないかな。憎たらしいんだよね」
「楽しんでたくせに。それに憎たらしいのは俺だって同じさ」
「だったら早く忘れたら?それが供養でしょ」
「そんな言い方無いだろう?まるで死んだみたいじゃないか」
「…へぇ、じゃあ生きてるんだ」

まさか、と口が動いた。

心亜はそれを見てフッと笑い、紙に目を戻した。

あの日あの時あの事件の首謀者をこの俺が見逃すわけがない。それがどんな事件なのか、今となってはとるに足りない出来事だし、今さら第三者が介入していい事でもない。

あんな思いはしたくない。
けれど今回の――牧野まなかという人間を、俺は警戒している。
また何かが起こる気がする。俺のいない所で。

「でも大丈夫。心亜は何も心配いらない」
「は?なんの?」

カサ、とまた紙を折って俺と目を合わせた。

「これから何が起こっても、俺は心亜を守るよ」

誠心誠意の気持ちを込めて言うと、心亜は呆れたように期待してる、と言ってストローに口をつけた。





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