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「首無しライダーってご存知ですか?」
「うん」

打ち解けたと言ったら誤解だが、俺達はそれなりにお互いをちゃんと認識できるまでに至り、本題に入った。

「黒いライダースーツを着た、化け物」
「本当にいるんですか?」
「いるよいるいる。何回も見てる」

折原さんは右目の下まぶたを少し引き下げ、この目でね、と言った。
その言葉に俺は胸を躍らせる。

たった数回言葉を交わらせただけなのに、この人の言葉を素直に受けとる俺。警戒心はもう無かった。

頬杖をつくのが癖なのか、笑うのが癖なのか、折原さんはさっきから体勢を崩さない。
そして自分から話を切り出すこともしない。

「…首は、本当に無いんですか?」
「厳密に言うと、あるよ。デュラハンって知ってる?アイルランドの妖精なんだけど」
「知ってます。死の近い人間に、タライいっぱいの血を浴びせるっていう、アレですよね」
「そう。デュラハンってのは、首から上がくっついてないだけで、首から上は持ってるんだよ」
「…?」

つまり、と折原さんは俺の反応を見てから言葉を紡いだ。

「首無しライダーは、自分の首を探してるんだ。この池袋でね」
「……はっ?」

気が抜けるような声が出て、折原さんはくすっと笑った。

「首を?自分の首…をですか?」
「そう。誰かが盗んで、それを取り返しに来た」
「…日本に?」
「日本に」
「……」

思わず黙ってしまった。
折原さんはそれ以上何も言わず、ストローに口をつけた。

どうやら嘘じゃないらしい。

…いや待て。
なんでこの人こんな詳しいんだろう。ネットじゃそんな書き込みなかった。

折原さんを見返すと、ストローで氷をつついていた。
カランカランと音が鳴る。
大人じみているくせに、妙に子供っぽい。俺はまたすぐ視線を逸らした。

「…詳しいですね」
「知り合いが物知りなんだ」
「その人に」
「会うことはできないよ」

俺のセリフを先回りし、折原さんは氷をつつくのを止めずに言った。

「っていうか、会わせたくないし、会わないほうがいい。君のためにも」
「…気になるんですが」
「大丈夫。私は会わせたくないけど、もしかしたらあっちから日吉くんに会いにくるかもしれない」
「え?」
「もしかしたらね。もし会っても、シカトしてればいいよ。ベラベラ勝手に話しだすから」

氷いじりに飽きたのかストローから指を離し、紙ナプキンで指を拭いた。

なんだか意味がわからない。
勝手に話を進められ、それを頭の中で整理するのには時間がかかった。

折原さんの知り合いが、折原さんにさっきの話を吹き込んだ、ってことでいいのだろうか。

じゃあ、そんな話を吹き込んだ折原さんの知り合いとやらは、一体どんな人物なのか。

「じゃあさ、日吉くん」
「…はい?」
「ダラーズ、知ってる?」
「…カラーギャング…ですよね」
「そう」

折原さんはまたもや意味深なワードを口にした。

「ダラーズが何か?」
「首無しライダーも、ダラーズのメンバーなんだって」
「…ちょっとこんがらがってきました」
「これだけの情報量を一気に保存するのは無理な話だよねぇ」

厭らしく語尾を伸ばすと、折原さんは困惑する俺を見ておかしそうに笑った。




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