59-2

ガタンガタンと音がする。
ここから池袋まで20分弱。そして駅に停まるたび増える乗客。

「……」

大丈夫か、あの人。

あの人とはフードの人である。
後ろの男二人はぴったり背後にくっついていて、彼女と同じで窓の外を見ている。

そして、一人の様子がどうも可笑しい。

一人が話しているのに適当な相づちしか打たず、じーっと窓の外を見ているからだ。
たまに気を紛らわすように話を振るがすぐ終わる。というかいちいち声がデカい。

そして俺は決定的な瞬間を見た。

男の手が、彼女の太ももをまさぐっていた。

「…!」

痴漢である。
他の乗客は気づいてないのか。

っていうか彼女も彼女だ。
我慢しているのかそれとも…いや、それはない。きっと二人は見ず知らずの赤の他人。
その線で行くとやばいことになるんじゃないか。

助けるにも距離がある。そして人も多い。
迂闊に近づいて相手が気づいたりしたら犯罪者を野放しにすることになる。

考えた末、一か八かの勝負に出た。

携帯のストラップを外し、それを投げる。
人々の足をすり抜け、それは車内の真ん中で止まった。

俺の周りにいた奴は奇行だと思ったかもしれない。

「すみません、通してください」

ストラップを探すという名目でその場を離れた。
多少もみくちゃになりながらも距離を縮める。

ストラップがある場所を無視して、俺は三人の近くへ来た。

そして手を伸ばす。

「っ!?」

手首を掴むと男が動揺したのがわかった。フードの人も驚いたように顔を上げ、小さく振り向いた。

「なにしてんですか」

小さい声ながらも周りの人間には聞こえていたらしく、この光景をすぐさま理解したらしい。

「痴漢ですよ」
「は、はぁ?ちげーよバァカ」

だが大きすぎたその声はその場にいた全員に聞こえることとなった。

隣にいた男も驚愕したようで、目を丸くしていた。

「ち、ちげえから!嘘じゃねぇよ!」
「現にあなたはこの人の足を触っていました。…間違いないですよね?」
「…はい」
「俺だって証拠はあんのかよ!?たまたま手がそこにあっただけっ…」
「言い訳するな。とりあえず次の駅で降りてください。駅員に引き渡します」
「命令すんじゃねえっ!」
「!」

手を振り払い、左手の拳が構えられた。

殴られると悟り顔を庇ったが、一向に拳は飛んでこない。

恐る恐る腕を下ろすと、男の左手首を彼女が掴んでいた。

俺も周りの人間も皆驚愕していた。
そして彼女は呟いた。

「黙れ犯罪者」

痴漢をされた人なのか疑うほど、その声音はひどく落ち着いていた。




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