「幸村くん、これあげる」
部活を引退してから関わらなくなってしまったマネージャーから、チョコレートを貰った。
今までくれた女子とは違い、そこに恥じらいはなかった。
強いて言えば、少し面倒くさそうだった。
「ありがとう。手作り?」
「ううん。コンビニで買った」
「え?わざわざ?そんな、よかったのに」
「いや、お世話になったから。社交辞令ってことで」
そう、と自分で聞いておいてなんだけど、少し悲しくなった。
少なからず俺に気があると思っていたのに、彼女の口からはっきりと否定されたのがなんだか悔しい。
そう言えば、俺が入院してる間、この子一回もお見舞いに来なかったんだっけ。
完全に脈なしってことか。自嘲気味に笑った。
「高校に入ったら、どうする?またマネージャー、してくれる?」
「どうかな。三年間けっこーキツかったし…考えとくよ。そろそろ帰るね、塾あるから」
「うん。考えといて。またね、これありがとう」
「ん。ばいばい」
「ばいばい」
話を切り上げ、逃げるように去っていった。
あまりよく思われてないのか、俺は。
…それは別にいいけど、だったらこういうことしないでほしいな。社交辞令でチョコレート渡すとか、男って案外誤解するもんなのに。
はぁ、と苦笑いして教室に戻った。荷物を取って教室から出てくると、廊下に柳生がいた。
「おや幸村くん。今年もすごいですね」
「あはは」
両手いっぱいに袋をぶら下げている俺をみて、柳生は感心したように言った。
その手に持ったチョコレートが、俺の目に入ってきた。
「柳生だって貰ってるじゃないか、それ」
「え?ああ…。さっきなまえさんに会ったんです。お世話になったから、と。お世話になったのはこちらだというのに」
「うん、俺も貰った。コンビニで買ったって言われたよ」
「えっ」
「え?」
「あ…いえ、何でもないです」
一瞬取り乱した柳生は、マネージャーから貰ったと言ったチョコレートを見て、なにかを考えているようだった。
確かに俺と柳生が貰ったチョコレートは、ラッピングが随分違う。
ああ、成る程、これはつまり。
「よかったじゃないか」
「え?」
「手作りだと言われたんだろ?俺の社交辞令のチョコと違って、それは多分本命チョコだよ」
「……まさか」
顔が赤くなったのを俺は見逃さなかった。
成る程、それは、妬ける。