隠れた「愛」
別に付き合ってるわけでもない。どっちかが相手を好きってわけでもない、と思う。
なのに知り合ってから毎年、バレンタインに俺はあいつからチョコをもらってる。

作ったからあげる、とあいつは言うだけで、そのチョコレートの真義はわからない。
義理なのか友なのか本命なのか。わけもわからぬまま8年間もらい続けてきて今年で9年目になるわけだが

今日、なまえは一向に姿を見せなかった。


どうやら今年は貰えないらしい。授業が終わった後、しばらくこうして教室で待ってみたものの、いまだに現れない。
そろそろあほらしくなったので、戸締まりをして教室から出た。

別に嬉しいわけでも残念なわけでもない。ただなんか物足りない。
毎年の恒例行事みたいなもんだと思ってたのは俺だけだったのか。なんだか裏切られた気分だ。

しかしだからなんだ。
あいつから貰えなくても、今年も収穫はある。ざっと数えて20は貰えた。お返しする数が一個減ったんだ。よかったじゃねぇか。


「…あ」
「おっ」


なんて考えてたら、玄関に本人がいた。今から帰るところらしい。


「宍戸もいま帰り?遅いね」
「…まぁな。人待ってたけど来なかったから」
「ありゃりゃ」
「…いや、待ってたのお前なんだけど」
「え!?なんで?」
「バレンタイン。今年はくれねぇの?」
「うん。忙しくて作ってない」


けろりと言って笑った。
なんだか気が抜けた。深い理由じゃないだけマシだと思ったら、なんだか安心した。


「欲しかった?」
「貰えないよりは、貰いたかった」
「そうだね、私もあげたかった」
「なぁ」
「うん?」
「なんで毎年チョコくれるんだ?俺のこと別に好きってわけでもないんだろ?」


俺の問いかけはある意味ひどい内容のものだったが、なまえは瞬きを二回して、ふふ、と笑った。


「うん。特に宍戸に好意はない。恋愛感情もない」
「じゃあ何でだよ」
「わかんない。義理とか友チョコみたいな感覚であげてた。最初はね、渡すはずの友達が学校休んで、チョコが一個余ったの。で、ホワイトデーにきちんとお返しくれそうな男子にあげればいいやって。それが宍戸だったんだよ。宍戸ちゃんとホワイトデーにお返しくれるから、それに甘えて毎年あげてたんだね」
「…ギブアンドテイク?」
「そう!まさにそれ!」
「…なんか一気に醒めた」
「だって宍戸超律儀なんだもん」


長年の謎がついに解けたが、真相はずいぶんあっけらかんとしていた。
そこにいたのが俺ってだけだったらしい。なんだそれ。


「…あっ、そうだ、じゃあ今年はこれあげる!」
「あ?」


軽く放心状態の俺に、かばんから取り出したものを差し出すなまえ。

手に取って確認する。まだあったけぇ。


「…おしるこ?」
「さっき自販機で買った。今年はこれね!」
「…マジかよ」


ちょうど飲みたかったんだよな、これ。

苦笑いしながら、今年もやっぱり貰う運命か、と思ったら気が晴れてきた。


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bkm
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