「チョコあんだろ。出せや」
「トリュフとクッキーどっちがいい?」
「両方」
「駄目。あげなかったやつは黒子くんにあげるの」
私がそういうと、青峰くんはよりいっそう不機嫌になった。
なぜそこで不機嫌になる。だいたい自分、結構もらってんでしょーが他の女子から。
「なんでテツなんかにやんだよ」
「友チョコだよ。っていうか、テツなんか、ってなにその言い方」
「あいつとお前が友達ってガラかよ」
「友達だよ。今は青峰くんより仲いいもん」
私がそう言うと、青峰くんはより不機嫌になって眉間のしわを深く、濃くした。
しかし私だってめげない。
だいたい、最初に黒子くんを突き放したのは青峰くんのくせに、なんて、言うことはできない。
「で、どっちがいいの?」
「…いらねぇ」
「は?」
「いらねぇよ。両方テツにやりゃあいいだろ」
「なにふて腐れてんの?」
「うっせーな!」
最初に欲しいって言ったの、自分じゃん、なんて言わない。私はなにも言わない。言っちゃいけない。それこそ言ってはいけない。
チッと舌打ちをしてから、私に背を向け歩いていく。青峰くんの背中がとても悲しそうだった。
「……馬鹿みたい」
ボソッと呟いた。何はともあれトリュフとクッキーをあの細い黒子くんが食べきれるのかなんて無理な話だし、まず迷惑だ、とこじつけて、クッキーは流石に割れると思ったので、その悲しそうな背中に向かってトリュフを投げつけた。
しかし私はノーコンなので、背中ではなく頭にあたった。
「いってぇななにすんだブス!」
「トリュフ!あげる!」
「いらねーよ!」
「じゃあ捨てといて!…お返しくれなかったら泣くからね!」
「知らねーよ勝手に泣いてろ!」
最後の最後まで憎たらしい奴。
でもやっぱりせっかくのバレンタインタインなので、私はそれ以上なにも言わず、黒子くんを探しに向かった。
「……」
可愛くラッピングされた袋を青峰は拾いあげた。
捨てるなんてできるわけがなかった。
「……なんでいまさら優しくすんだよ、クソ女」
お前じゃねぇか、オレを最初に突き放したの。
なんでこんな気を持たせるようなことすんだよ馬鹿女。
オレはまだお前が好きなのに。なにがバレンタインだ。あほらしい。
「…テツなんかほっとけよ」
なんて、言えるわけない。
だからオレはその代わりに、トリュフを口の中に入れた。