「ほい」
「え」
差し出された綺麗な小包が、お菓子だとわかるのに時間はかからなかった。
だってバレンタインだし。
しかしこんな可愛いものをなぜカク先輩が女の私に差し出してくるのかというのが最大の疑問であり難点であった。
「…私に、ですか?」
「他にだれがおる?」
私が確認するとカク先輩は逆に質問をしてきた。
確かにここには私たち以外いないけれど、そういう意味じゃない。なぜ私に、というのが聞きたいのだ。
なかなか受け取らずにいると、カク先輩はハッとした。
「まさかチョコ嫌いか!?」
「えっ、いやいや食べられますけど」
「そうか。なら早く受け取らんか。せっかく買ってきたというのに」
あ、やっぱりチョコレートか。
…せっかく買ってきたって、どういうことだろう。
迷ったけれどありがとうございますと言って受け取った。
受け取ったチョコをまじまじと見つめていると、カク先輩の声が「なぁ」と頭から降ってきた。
びっくりして見上げると、カウンター越しにカク先輩は身を乗り出し、私を見ていた。
いい忘れていたがここは図書室で、あと数分で閉めなくちゃいけない。
「な、なんですか?」
「今日この日に、なんでワシがお前さんにチョコをあげたかわかるか?」
じっと真剣な眼差しで私を見てくる。こんな顔した先輩初めて見たな、と思いながら、私は頭の中で必死に言葉を探す。
「え…や、まぁ…バレンタイン、ですか?」
「うむ、その通りじゃ。だが答えになってない」
「……?」
言っている意味がよくわからない。カク先輩は私になんて言ってほしいんだ?
えーとえーと、と考えていると、カク先輩はハァ、とため息をついて私から離れた。
そして、嫌そうな顔をして頬杖をついた。
「…もうよい。お前さんがそんな馬鹿だとは思わなかった。もう少しリアクションしてくれてもええじゃろ。…ったく」
「…なんですか」
急にふて腐れた先輩。なんなんだ本当に。リアクション?取ったじゃないか。
私がその先の言葉を待っているというのに、今度は突っ伏してはぁあああ…と長いため息をつくばかり。なんだよ本当に。
なにかヒントがあるのではと思いチョコレートに目をやる。第一このチョコレートだって友チョコとかお世話になってますみたいなそんな意味合いだろうに。あれ、私先輩にお世話を焼くようなことあったっけ、まぁいっか。
包んである紙を綺麗に剥がすと、箱の上にメッセージカードが添えてあった。
「……I love you?」
「!!」
私がそこに書いてある文字を読むと、カク先輩がすごい勢いで顔をあげた。ほんのり赤くなっていた。
この先輩のリアクションを見てもわからないほど私は馬鹿ではない。
恐る恐る先輩に目を戻すと、「何で今開けるんじゃ…」とブツクサ言いながら目をそらしていた。
「…先輩先輩」
「…なんじゃ」
「このメッセージカードのことは置いておいて、これはいわゆる、逆チョコですか」
「まさにその通りじゃ。…女々しいじゃろ。お前さんは、絶対ワシにくれんと思ったからな」
「まさにその通りです。先輩には作ってません。…欲しいと言ってればあげたのに」
「んな形だけのモンいらんわい。…つまりまぁ…なんじゃ、あれじゃ。好きじゃ。付き合おう」
「…先輩、案外可愛いとこあるんですね」
私がそう言ってやると、カク先輩はうるさい黙れと言った。
カク先輩は頭がいいので、私の言葉の真意がわかったみたいだ。