僕の彼女は霊体質です
「当分家から出ない」

なまえとの電話は通話10秒も経たずに終わった。もしもし、と出て冒頭に戻る。そして切られる。理由も言わず。
それはまだ許容範囲なのだが、電話越しのなまえの裏側で何かを引っ掻くような音がしたのはどういうことだろう。いや考えなくてもわかる。

幽霊という存在に、彼女は脅かされているのだ。

ただなまえの強いところは、タフな所だ。
普通の人間なら死をも覚悟する体験をしても、彼女の意にかえさないところは強味だと思う。

そんななまえが家から出ないということは、相当厄介なんだろう。

今から行くとだけメールして、俺は急いで着替えた。



古来から猿は魔除けの動物として崇められてきた。
鬼門封じでも活躍するし、昔話の桃太郎でも猿はお供として活躍している。
その為もあって、なまえの家の玄関には猿の置物が置いてある。用心棒らしいが、どうだろう。

チャイムを押すとお兄さんが出てきた。

「あっ日吉くんか、ってことは体調悪いのは霊関係だね」
「そうらしいです」

なまえの霊体質は家族中でもダントツで、お兄さんもそのことは重々承知している。
なぜ俺が来ただけで(霊関係だと)わかったかと言うと、俺はみょうじ家公認の魔除けというか護符みたいな存在で、なんでも幽霊が近寄ってこない体質らしい。

付き合いたての頃、頼むから来てほしいと言われてなまえの家に行き、呪われた人形なるものを見せてもらった。
誰も移動させてないのにいつも違う場所に座っていて手がつけられないということで、俺ならなんとかしてくれるんじゃないかと踏んだらしい。

当時からなまえに「日吉はいるだけで勝手に祓ってくれる」と言われていたが、実際に頼られると少し困った。
家族総出で居間に集まり、問題の人形を俺に見せた。

「古い、ですね」
「名前はマイケル」
「いやこれ女の着せ替え人形だろ。それに怒ってるんじゃないのか」

よくある着せ替え人形だった。小さい頃のなまえの遊び相手だったらしい。しかしマイケルはないだろう。

「これがねぇ、家中を点々としてるのよう。なんとかできないかしら?」

とお母さん。

そうらしいですね、と言ってその人形を手に取ったら、バキッバキッバキッ、と音を立てて肘が折れた。人形の。
一瞬のことで意味がわかんなかったのだが、ボテッ、とまだくっついてる胴体が机に落ちて、俺の指は人形の肘から下だけを摘まんでおり、両端から感嘆の声が聞こえた。

思わず落ちた胴体を持つと、コロッ、と簡単に首が取れた。
またおお、と声。いやおおじゃないだろう。

「やるじゃん日吉すごい!」
「えっ」
「まぁ助かったわ日吉くん!」
「えっ」
「よしっ、じゃあ燃やそう!紙とライター持ってくる!」
「えっ」
「待ってお兄ちゃんお父さんに電話!」
「あっそうだ電話しよう!」
「牛肉も買ってきてもらって、日吉くんも一緒にすき焼き食べましょう!」
「えっ」

それから庭で人形が焼かれ(また持ったら足が取れた)、すき焼きをご馳走になった。
以来俺はセコムになった。なまえには「別れたくなったら別れてもいいけど変わらずに私たちを助けて」とまで言われた。

話が長くなったが、つまり俺はなまえにとって大きな存在だという。自分でもそう思う時がある。今日みたいな。

「なまえー、日吉くん来たぞー」
「んー入ってー」

お兄さんが扉を開けると、床に仰向けになって漫画を読んでるなまえがいた。ほら見ろ、タフだ。

普通布団をかぶって震えてもいいだろうに。しかしなまえに言わせると、いつも通りか少し馬鹿してるほうがいいと言う。
お兄さんはじゃあねと言って一階へ下りていった。

部屋に入って扉を閉める。
漫画から目を離さずに、なまえはいらっしゃーいと言った。

「大丈夫か?」
「今のところはね。いやしかしよく来てくれた」

やっと漫画を閉じて俺を見た。表紙はなんの漫画とは言わないが有名な少年漫画のキャラクターが上半身裸で拘束されており、俺は目を背けた。

これがいい対処法らしいが俺にはわからない。

「…で?今回はどうしたんだ。なんか引っ掻くような音したぞ」
「昨日事故現場通ったら連れてきちゃったらしい。ヘルプミー」
「…プリン買ってきた」
「食べる!」

勢いよく上半身を起こした。
冷蔵庫に入れてもらった、と言うとささっと立ち上がりドアを開けて部屋を出た。階段を下りる音と、おいくそ兄貴、の声が聞こえた。

やれやれとゆっくり立ち上がる。

「しかしあっついな…」

太陽の明かりが窓からでも鬱陶しいほど眩しい。

今日は暑いなと部屋の窓ガラスに手を置いたら、ピシピシピシッと音を立ててヒビが入った。

「………………」
「日吉ー、食べよう!」
「っ!」

下の階からなまえの声がして、驚いて縮こまった。
ヒビが入った窓を見なかったことにして、俺は部屋を出た。


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