唇の皮をむくせいでカサカサな唇にはリップクリーム。痛そうなささくれには絆創膏。
「学習しろ、馬鹿」
「癖でやっちゃうんだよねー」
ポケモンの絆創膏を貼ってやると、なまえは飽いてる右手で唇を触りだした。
俺が睨むと、触ってるだけ、と言って笑った。本当に、学習しない。
「血の味がすると達成感がこう、グワッとね」
「……」
本当に呆れる。
たしかに俺も経験がないわけじゃないが、見てるこっちが痛いし、そんなに自傷されるとなにかあるんじゃないかと心配になるからやめてほしい。
なまえによると、血が好きなわけではないらしい。ただ、やりこむと血がでるまでやりたくなるという。
さっき言ったように達成感とやらが欲しいと言うが、そんなことで達成感を得らなくてもいいだろうと常々思う。
「その手癖の悪さ、どうにかしんしゃい。腐っても女じゃろ」
「魔がさしたらね」
「オイコラ」
血が好きじゃないとは言っていたが、血には憧れるという。なんかカッコイイじゃん、と言うなまえの厨二病には感服するばかりだ。
「そのうち、血を見せろーとか言って、襲ってきたりして」
「なっ、そんなことしないよ!だいたい血が好きなわけじゃないし。血みたいな赤色が好きなだけだし」
「充分怖いぜよ。赤でええじゃろ」
「違うんだなー。ささくれの血ってちょっと暗い色してるの。それが好き」
貼ってやった絆創膏をかざしながら、なまえは得意気に話した。
「あと、雅治が世話やいてくれるしね。普段はジュースの一つも奢らないくせに」
「俺がやらんとお前ほっとくじゃろ。それに絆創膏貼っとけばむかんでもすむし」
「リップくれたけどあれは?」
「ああ、あれ俺の使い捨て」
「えっ、ヤダキモッ」
「嘘ナリ。ってか本気で嫌がるな。少しくらい嬉しがらんかこの罰当たりが」
「いだだだだ!」
ぎゅう、と絆創膏を貼った指を指で挟んで横から圧迫すると、じわじわと血が滲んできた。
「あっ、血出てきた!」
「そこで喜ぶな」
「自分でやったくせに」
なまえは貼ったばかりの絆創膏を剥がして、血が出てる指を口にくわえた。
「美味である」
「アホ」
俺がそう言うと、なまえは可笑しそうに笑った。