「ナマのゆーくん超かっこよかったんだけど!しかも、しかもね、しゃがんでこう、手出してくれたんだよ!!」
きゃあきゃあ騒ぐなまえに適当に相づち打ちながら、俺はアイスを食べた。
いつまで続くんだ、この話。
「手がね!手がね!触れたの!」
「あーよかったな」
「もう一生ファンでいる。世界中がゆーくんの敵になってもあたしだけはゆーくんの味方になる」
「それ俺の立場どーなんの?」
「割り切る」
「おいふざけんな」
冗談じゃねぇぞホント。
でもなまえは真顔で怒るに怒れなかった。
ジャニオタなのは前から知ってた。別にやめてくれとは言わないけど、もうちょい俺にも構ってほしい。
前に我慢できなくなって、ジャニオタやめろと言ったら、
「じゃあ赤也もテニスラケットとかユニフォームとか捨ててね。もちろん部活も辞めてね。私もファンクラブ退会するしポスターもCDも燃やすし携帯のデータ全部消すから。それくらいしてよね当たり前でしょ?」
と真顔で言われて破局寸前の大喧嘩になった。
なまえに言わせれば、ジャニオタであることは俺がテニスプレイヤーであることと同じらしい。つまりそれくらい大事なんだと。
「そんなにいいかよ、ゆーくん、が」
「最高だよね」
「いや知らねーし」
「最高なんだって」
「ああそーかよ。…あ、バカ、アイス溶けてんぞ」
「え、あ、ほんとだ…って、赤也食べるの早っ」
「お前が遅いんだよ」
プラスチックの棒を口にくわえながら、なまえが食べ終わるのを眺めた。
自分の目の前に?少なからずイケメンな?この俺がいるのに?しかも彼氏なのに?こいつの頭の中では7割ゆーくんが占めてるとか、ほんっと、ムカつくわ。
「灯台もと暗しっつーんだっけ、こーいうの…」
「?」
「…お前、マジで俺の彼女だよな?」
「えっ、違うの!?」
「いや違わねぇけど」
「彼女だよもー。そして赤也はあたしの彼氏。こんな優しい彼氏いないよねー、感謝してるんだよホント」
「どこにだよ」
「優しさ。赤也めっちゃ優しいよ。あとね赤也、アイドルと自分を同じ土俵に立たせちゃ駄目だよ!アイドルはアイドル、赤也は赤也。ねっ?」
「…じゃあ、もしそのゆーくんが告白してきたらどうすんの?」
「赤也がいるから断るよ。あたしみたいなのがゆーくんの彼女なんておこがましすぎる」
「…………」
そういう理由かよ。
「それにこんな女、付き合ってくれるの赤也しかいないよ」
「おーそうだろーな。お前みたいなやつを受け止める優しさがあるのはこの赤也様しかいねーよ」
我ながら、本当にそう思ってる。
隣でありがとう大好きだよー、と、なまえが言った。