僕の彼女は親友の元カノです
「あ、おはようクソ眼鏡。寝癖ついてるよ」
「やぁロマーナ。君も相変わらずクマがすごいよ」

目の前にいる男女がお互いに相手の寝癖を直し、相手のクマを撫でる。
その様子を黙って見ている俺の視線に気づいたのか、ロマーナと呼ばれた女は、あらいたの、とジェームズの頭から手を放した。

「おはようシリウス。しかしやっぱりシリウスはしっかりしてるね、服は着崩してるけど」
「僕もああしろと?」
「見習えば?リリーもその方が振り向くよ」
「君がそう言うなら、きっとそうなんだろう」
「……」

未だに何も喋れずにいる俺の横を、リーマスとピーターが苦い顔をして通りすぎる。わかってる、俺だって不服だ。

自分の彼女が元カレとこんなくっちゃべってたら、流石の俺も嫉妬する。



ロマーナとは通称で、本名はなまえと言う。いつも物語の本を読んでいるので、物語小説の「roman(ロマン)」から取って、「romana(ロマーナ)」と呼ばれるようになった。なまえもいたくこれを気に入っており、仲間内ではその呼び名で呼ばれることがほとんどだ。

そしてそんななまえは、ジェームズの彼女だった。
本人達からすれば、お互いに好きだと告白したわけではなく、いつも側にいるから自然とそうなった、と言っていたが、彼氏と彼女の間柄だったことは認めている。

五人で過ごすうちに、俺はなまえを好きになった。二人がそんな仲とは露知らずに。なので告白したとき、「ジェームズに聞いてみる」と言われたときは流石にビビった。

その後ジェームズが好きな人(つまりエバンズ)が出来たからなまえとの関係を親友に改めたい、と切り出し二人は別れた。別れ話も随分あっさりしていたらしい。つまり二人に未練はなかったわけだ。

現在、親友になった二人は前と変わらずいつものように仲良くしている。そして俺もなまえの彼氏になった。
しかし元恋人同士という見えない糸だか鎖だかが、俺の目からは二人を繋いでいるように見えてしまい、その現状に勝手にイライラする受難の日々が続いた。


「お前ら本当に仲いいよな」

我ながら卑屈だと思いながら、恋敵の隣に座った。
ジェームズは笑いながらパンを手に取った。

「入る隙がないって?」
「見えないバリア貼られてる気分」
「でも大丈夫、自信持てって。なまえはもう君の彼女。キスでもなんでもすればいい」
「…そういえば、お前らキスしたの?」
「してないよ。ああいうの好きなタイプじゃないし…あっリリーおはよう!」

げっ、と声がした先にはエバンズがいた。まだ振り向いてもらえないらしい。
ジェームズは立ち上がり、エバンズと食事をするため後を追った。なまえはああいうのを見てどう思ってんだろ…と思ってなまえを探すと、席が無いのかウロウロしていた。

「おーいなまえ!」

名前を呼ぶと、すぐに気がついた。
空いてるから来いよ、とジェームズがいた所を指差すと、なまえは駆け足でやって来た。

「いやー助かった。ありがとねシリウス」
「おう」

近くで顔を見たら、やっぱり目の下にクマがあった。さっきジェームズがそれを触ったことを思いだし、思わず手が出た。
なまえは少し驚いたようで、びっくりした、と呟いた。

「…ほんとにクマすごいな」
「え、そんなに?」
「取れない」

思わず指でごしごし擦ると、なまえは痛いよ、と笑った。可愛い顔して言うもんだから、咄嗟に手を引っ込めた。

「…そういえばシリウス、最近ロマーナって呼んでくれないよね」
「え」
「付き合う前もなまえって呼ぶことがあったよね。ロマーナってダサいのかな?」

それは、お前に俺を意識させようとわざと名前で呼んでたんだ。

「お前も、俺のことパッドフットって呼ばねぇじゃん」
「だってそれ呼ぶと機嫌悪くするじゃん」
「は?俺が?」
「うん。ジェームズ達には普通なのに、私が呼ぶと嫌そうな顔する」

それは多分、お前が彼女だからだと思う。

「…いや、だから、まぁ…。…俺たち恋人同士だろ。どうせなら名前で呼びあいたいじゃん」
「…」

何も言わないなまえが気になって、チラリと横目で見てみると、目の前の食事を皿に盛っていた。
聞いてなかったのかこいつ…と呆れながらその様子を見ていると、なまえは食事が盛られた皿を俺の目の前に置いた。

「ふうん、なるほどね」
「は?」
「じゃあ私も、今度からジェームズをプロングスって呼ぶことにする」
「!」
「私のことは名前で呼んでね。私もシリウスはシリウスって呼ぶから」

にこっ、と笑い、なまえはパンをかじった。

遠くでエバンズの怒号とプロングスの悲鳴が聞こえたが、俺はなんだか幸せだった。


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