バタバタと階段を登る足音がする。
途中女性とぶつかったのか、可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。が、探偵は気にも止めず、机に乗せた足を組み直した。

バタバタ、と音が近くなる。
そしてそのまま、扉が開いた。

「シアン!また被害者が出たで!」
「そんな大きな声で言わなくても知ってるよワトソン」
「ちゃうちゃう!ついさっきや!新聞にはまだのってへん!通りの広場で遺体が見つかった!」

ワトソンと呼ばれた青年の声に反応した探偵は、顔を隠していた新聞を折り曲げ、初めて顔を見せた。

「女?男?」
「それを今から調べにいくんやろ」
「ああ、そうだね」

ニヤリと笑い、新聞を放り投げ、机から足を退け、椅子から立ち上がる。
その間にワトソンはかけてあったトレンチコートを外した。

「行こうかワトソン」
「おう!」

それを探偵に投げ、探偵はそれをキャッチし、二人は部屋から出て行った。


探偵の名はシアン。
ワトソンと呼ばれた彼は、謙也。

この街に一つしかない、探偵事務所の探偵と、その助手である。




広場にはテープが貼られていて、老若男女がごちゃごちゃと騒いでいた。また犠牲者?一体誰なの?ああお可哀想に、と声も聞こえる。
シアンと謙也はそれを遠目から観察していた。

空は青いがまだ太陽がのぼって時間は浅く、少し肌寒かった。


「…今何時?」
「今?」


シアンの声に、隣にいる謙也が腕時計を確かめた。


「7時58分、やな」
「君の時計が狂ってるのか、広場の時計が狂ってるのか」
「え?」


意味がわからない謙也はシアンを見た。
シアンはあれ見てみ、と広場のシンボルである装飾された時計を指差した。


「7時2分」
「!あ、ホンマや!…しかも秒針動いてへんな。完璧とまってるやんけ」
「後で役場に電話しておいて。広場の時計が止まってますよって」
「え!?俺が!?…何課やろ?」


真剣に悩む謙也にシアンはよろしくね、と再度釘を刺し、群衆へ歩を進める。謙也は急いでその後を追った。

二人はテープの前まで来て、身を捩らせその奥にある証拠を確認しようとした。

スーツにくるまれた被害者が運ばれるのを、二人は確かに確認した。


「男か女かかけようか」
「…あの大きさじゃ男やろ」
「じゃあ私は女ね。負けたほうが朝ご飯奢る」
「……」


ニシシ、とシアンは笑う。それを横目で見て、悪趣味やな、と謙也は身震いした。

そしてまた視線を外し、真っ直ぐ前の現場を見た。


「よく見えないなぁー」
「まだ書類貰てへんし、中入るのはやめとこうや。顔見知りの刑事もおらんし、」


な?と同意を求めようとシアンを見たら、そこに奴はいなかった。
一瞬驚いたがシアンが行きそうなところは皆目検討はつく。

視線を戻すと、シアンはテープの中に入り、作業をする刑事たちに挨拶していた。


「……ハァ…」


謙也はため息をつき、自分もテープをくぐった。



被害者は女。ジョギング中に何者かに射殺され、死亡。
右足に一発、眉間に一発の計二発。眉間の一発でほぼ即死。死亡推定時刻は早朝6時から7時の間。


「……」


メモ帳に殴り書きをして、仁王は改めて現場に目を通した。犯人が残していったものはないらしい。

花壇の話を掻き分ける柳生が見えたので、仁王は近づいた。


「なんか出たか?」
「出ませんね。犯人が使った銃も落ちていないようです」


そう言ってパンパンと手を払い柳生は立ち上がる。
柳生のほかにも刑事たちが、犯人の痕跡を見つけようとしていた。


「そんな血眼になっても見つからんじゃろ。ライフルで多分、どっかから狙ったんじゃ」
「え」
「真後ろや目の前からやったんなら、たまたま通りかかった新聞売りだって殺されてるはずじゃ」
「…彼女の恩恵でしょうか」
「あ?」


柳生の一言は余分だったらしく、仁王は一気に不機嫌になった。柳生はクスッと笑い、失敬、と呟く。仁王はそれを見て呆れた顔をした。


「シアンさん呼ばれたんですか?」
「呼ばん」
「はて。では誰が呼んだのでしょう」
「…は?」


嫌な予感がした。
柳生を見るとすでに何処かを指差していた。

指差す先には、遺体を運ぼうとした処理班をとめて、何かしているシアンと忍足がいた。


「…あの馬鹿……。さてはお前が」
「いいえ」
「…シアンッ!」


ため息混じりの怒号と共に、仁王は二人のもとへ走って行く。
柳生も手袋を外してから、仁王の後を追った。


「…あ、おはようダーリン」
「お前なぁっ…!」


遺体から顔を上げて、にこっ、とシアンは笑った。




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