シアンが仁王に対して積極的になるのは、主に二つの理由がある。


「……」


背中は壁、前には仁王、と挟まれたシアンは余裕の表情。仁王は距離を縮めることはせず、じっとシアンを見つめていた。
そんな仁王に飽きたのか、シアンは肩に手を置いて距離を縮めた。

一歩、仁王の足がシアンへ動く。
シアンの手が自分の首を撫でた。仁王は左手でシアンの腰を掴み、ぐっと自分へ寄せた。


「ッ…」
「…」


甘い空気が二人を包む。
先にそれにやられたのは仁王だった。
腰を掴んだ左手が、シアンの服の中に入り込んだ。

シアンはニヤリと笑い、右手で仁王の左手を静止させる。
そして顔を近づけ、左手は仁王の頬に添え、口を色っぽく開けた。

正直それだけで仁王の理性は切れそうだったが、なんとか持ちこたえ、続きを待った。
シアンはまたニヤリと笑う。


「事件のこと教えてくれたら、続きしてあげる」
「……だと思った」


怒りと恥ずかしさとガッカリしたこの複雑な感情を、彼女は一生、知る由もない。

これがケース1である。

あと一つ、ごくまれに単に甘えたいというケースがあるが見られるのなんて二年に一回あるかないかである。


大体はいつも仁王からだが、余程の理由がない限りシアンは誘いを断らない。
が、仁王も大概なので、誘うなんて滅多にしない。

だからこうして色仕掛けしてくるシアンを怪しいと思っても、仁王は期待せざるを得ないのである。



***
知らねぇよっていう。
因みに冒頭の「ッ…」は仁王です。




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