キッド、と名前を呼ぶ声が聞こえた。
だが眠気には勝てず、オレはまた目を閉じた。

すると今度は体を揺すられた。
最初は小さい揺れだったが、だんだん、ぐわんぐわんと名一杯揺すられ、舌を少し噛んで目が覚めた。

目の前にいたのは、死神女。
沸々と怒りが沸いてきた。
この女、このオレの眠りを妨げてなおいきいきした目をしてやがる。イライラしねぇほうがおかしい。


「キッド!キッドキッドキッドキッドキッドキッド!!」
「なんだうるせぇ!!」
「あっはっは!!あはははは!呑もう!まだまだ夜は長いッ!!」
「あぁ?…ってクサッ!!酒ッ…テメェ何本呑んだんだ!!」


女の背後に転がっている船員たちと、空になった酒。
顔が赤い女。完全に呑まれてやがる。

ああそうだ、こうなることを予想してオレは一人で寝て、こいつら全員寝静まったら一人で呑もうとしてたんだった。

そして今、この馬鹿のせいでオレの計画は散った。


「なに先に寝てんのよ若造がぁー。ほら、呑め呑め!!」
「引っ付くなうざってぇ!」


身体中から酒の匂いがする。酒の樽に使ったんじゃねぇのかこいつ。

後ろに転がった屍の中にキラーがいるのに気づいた。あの野郎見張っとけって言ってこのザマか。
っつーかあのキラーをああさせるって、この馬鹿どんだけ呑ませたんだ。

背後を見るオレの視線に気づいたのか、酔っぱらいはああ、と言ってまた笑いだした。


「なっさけないわねー。骨のあるやついないのぉこの船は?ったく…」


そう言うとオレから離れ、のっそのっそとふらつく足取りで屍の中を歩き、適当に酒瓶を持ってまた戻ってきた。

そしてどかっと腰をおろし、酒瓶をオレに渡した。


「キラーが、キッドはこれが好きだって言ってた。あってる?」
「チッ、余計なことを…。っつーか中身少ねぇんだけど」
「まだ3分の2くらいあるでしょーが。終わったら新しいの出そうねー」


ガキをあやすように言うと、うっへっへと笑い自分の持っていた酒を飲み始めた。


「大酒かっくらうのはかまわねぇけど、明日どうなっても知らねぇからな」
「大丈夫、私一日寝てるから。二日酔いしないの」
「……」


黙って酒を飲んだ。いちいち相手にしてたらキリがねぇ。


「二人で飲むの初めてだねぇ」
「あ?」
「さぁ、本音トークしましょーか。何が聞きたい?あんた私に聞きたいことあるでしょ?」
「…テメェ酔ってんだろ」
「酔ってたほうが、人間本当のこと言いやすいよって、誰かが言ってた。さぁ、聞け!ピンからキリまでなんだって答えてあげよう!」
「とりあえずその酒を置けクソアマ」


それを聞くと女は赤い顔で笑い、酒を床に置いた。が、手は酒瓶から離さなかった。馬鹿なのかこいつは。

オレが呆れながら酒を飲む間も、女はニコニコ笑っていた。
今のこいつに話聞いたところで、それが確証とは限らねぇ。なら、下手に話を聞き出しても返答次第じゃ疑ったほうがいい。

オレが悩んでいると、女はじゃあ、と言った。


「なんもないなら、私からいい?」
「…なんだ」
「キッド、あんた恋人いないの?」
「…………あぁ?」
「あ、いないんだ」
「まだ何も言ってねぇだろうが」
「私にはわかる。やっぱり海賊って恋人とか、妻とか夫とか子供とか、気安く作れないんだねぇ。海賊王の話聞いたよ。あの人と繋がりがある人、全員殺されちゃったんでしょ?可哀想に」


そう言ってまた酒を飲んだ。
恋人。子供。馬鹿馬鹿しい。


「所帯を持った奴に、海賊は不向きだ」
「え?」
「船と仲間以外に大事なモンを作った奴が生き残れるほど、海賊は甘くねぇ。むしろそれが多い奴ほどすぐに死ぬ」
「…それが、恋人いない理由?」
「ハッ。いるだけ邪魔だ」
「でも惚れた女くらいいるだろー?お姉さんに教えなさいよぅ」
「だからひっつくな酒くせェんだよ!」


べろんべろんに酔っぱらったさをりをキッドは乱暴に介抱した。介抱と言っても、酒を奪っただけだが。

さをりはにへへ、と笑いキッドはチッ、と舌打ちをする。
するとさをりはあー…と何かを思い出すように呆けた声を出した。


「昔の男を引きずる女ほど馬鹿な奴はいないよねぇ」
「なんだ急に」
「昔の男を思い出してた」
「勝手にやってろ」
「いけずぅ。ちょっとくらい慰めてくれたっていいじゃん。体で」
「ババアが何言ってんだ」
「冗談!あっははは!」


ゲラゲラ笑うさをりに、キッドはもう一度舌打ちした。




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -