「……焼酎が飲みたい」


深刻な顔と深い溜め息。
それは彼女の悩みがどれほどのものかオレに語りかけていた。

うずくまる自分の前にオレが来たことも気づかず(…いやきっと気づいている)さをりは項垂れる。


「酒が全部ワインとビールってどういうコトだよ…。しかも大して美味くないし…」
「…そうか?」
「いや、飲みなれてないから口にあわないだけかな…」


確かに、船に乗ってからさをりが酒を飲むところを見ていない。
一度だけワインをすすめたが、飲み終わり顔をしかめ「…ジュース?」と呟いただけだった。どうやら口にあわなかったらしい。
死神も酒を飲むというのだから驚きだ。

しかも、かなりの酒豪と見た。


「……」
「泡盛もいいなぁ…」


無言でさをりを見ていると、突然ガバッと顔を上げ、日本酒ってこの世界にはないのか?と聞いてきた。

突然のことで驚いたが、日本酒という酒は存じ上げないことを素直に話すと、じゃあ、となお食い下がってきた。


「米!米から作った酒は?」
「米?」
「米」
「…聞いたことはあるが、それが日本酒かは知らない」
「え!?あんの!?」


さをりの顔がみるみるうちに活気を取り戻していった。
酒一つでなんと大げさな。


「おおー!!!この際それが日本酒じゃなくてもいい!今すぐ呑みたい!」
「島に寄ったら買えばいい」
「ああ。いっそのこと私印の酒でも造ろうか。そうすれば好きなときに好きなだけ飲めるし…。米と麹と水さえあれば…」
「そんな簡単にいくものなのか?」
「やる価値はある!」
「……」


たまにさをりは年齢とはかけ離れた言葉を口にする。(ちなみに齢1000を越えてるとか越えてないとか)

そういった子供らしさが、無邪気だと思うこともあれば、死神といえど無謀だと思うこともある。
特に最近は。

立ってるのも疲れてきたので、さをりの目の前に腰をおろした。
さをりはにっと笑う。これほど胡座の似合う女もいないだろう。


「酒豪か?」
「え?ああ、どうだろう。とりあえず気持ちよくなるまで呑む。ひたすら」
「…(酒豪だ)」
「煙管はやめられたけど、酒だけは駄目だなぁ…」
「煙管?…喫煙者だったか。なぜやめた?」


オレの言葉を聞くと、さをりは一瞬目を見開いた。しかし次にはそれを悟られまいと、すっと目を細めた。

なんだっけなぁ、と言葉を紡ぐ彼女の顔は、どことなく寂しそうであった。


「…隊舎が煙くなるし僕の肺に悪影響なのでやめてくださいって部下に言われてね」
「…成る程」
「まぁ前からよく言われてたから、ああまたかとしか思ってなくてその時はやめなかった」
「…」
「そしたらさァ、そいつ、突然行方不明になっちゃって。ちょっと遠出してもらったら…そこでなんかあったらしい。当たり一面そいつの血の海よ。でも死体はなくってね。虚に噛み殺されたんじゃないかって話にもなったんだけど…あいつの実力でそれはないから、結局行方不明って形で終わった。なんか申し訳なくなっちゃって、煙管吸う気にもなれなくてね。煙吐く度泣きそうになる。……あ、ゴメン。長かったか」


さをりはにこっと笑ったが、その顔に悲しみや悔いなど見受けられず、必死で隠そうとしているわけでもないらしかった。
もしかしたら作り話では、と思ったが、さをりは冗談、とは言わずに続けた。


「あの煙管、どこにやったっけ」


ああ、捨てたんだった、と今度こそ悲しげに前髪をかきあげた。



※キラー目線です




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