▼ 06
謙也さんが原因不明の何かを口にしてぶっ倒れたらしい。
犯人に目星はついとるわけやけど、面白いので黙っていた。
06#また会った
「明日から新学期やなぁ。今年はユウくんと同じクラスになれるかしら?」
「愛の力で、俺らは引き寄せられる運命にあるんやで…!」
「ユ、ユウくん…!」
「小春…!」
気持ち悪いホモップルは置いといて、まぁ明日から新学期なわけで、クラス替えには若干の楽しみがある。
まぁテニス部の二年はぎょうさんおるし、顔見知りは何人かおるから大丈夫やろ。
こう見えても顔は広いし、心配はないな。あるとすれば担任や。
っちゅーか今はそんなことどうでもええ。
今は新曲や。
最近限界を感じる。動画を作るのに。
作曲からイラストまで全部俺がやっているわけで、まぁ疲れる。
俺は絵は描けるがそこまで上手いわけでもないし、絵に関して勉強する気もない。
動画はサムネで決まる。つまりイラストが大事。
どんなに曲が良くてもそれはクリックしなきゃわからないわけで、動画を見てもらうためにはタイトルとサムネが大事になる。
タイトルはこの際置いておくとして、問題はイラストや。
そこに俺は限界を感じるわけであって、本当に困ってる。
そろそろ専属絵師が欲しい。
でもなぁ、殿堂入りしてない身分の俺が専属絵師って、なんやおこがましすぎるやろ。
友達が描いてくれましたーみたいな軽い感じがええんやけど、あいにく相手がおらん。
ユウジ先輩に好きな絵師さんの絵を物真似で描いてもらったことが一回あったんやけど見事ピカソになったので諦めた。
手先まで真似できないらしい。
ブログで声かけてみるかな。
前からちょくちょくイラスト送ってくれた人もおるし。
あーでも、身バレすんのは嫌やな。
関西地域だけにしぼって募集しよかな。
「財前はん、悩み事か」
「あ、師範。どうも」
「ダブルスのペアが再起不能になったからって、くよくよしとったらあきまへんで」
「そんな小さいことじゃないんで大丈夫っスわ」
「そうか」
「…師範って、絵に自信あります?」
「ん?絵か?ワシはからっきし駄目や」
「あー、そっスか…」
ここは敵ばっかや。
「ちょっと水飲んできますわ」
「おお、行ってきぃ」
師範に見送られ、コートから出た。
別に催しているわけやないので、そこらへんをふらついていた。
春休み最終日、つまり始業式の前日。今日は三年全員と運動部が午後から始業式の準備をすることになっている。面倒な話や。
でも同時に利点がある。
運がよければクラス替えの名簿を見ることができるという利点。
まぁ俺はそんな外道なことはせぇへんけど。
ぶらぶらと校舎の周りをうろついて、気まぐれに窓を見たら、ガラスを挟んだ向かいに見慣れた金髪がいた。
「…!」
小野寺や。
親父さんもおる。
服装は学校の制服だった。
あの金髪には正直似合わないけどなかなか新鮮なものがあった。
何しとんのやろ。
親父さんは誰かと喋っているようだったけど、柱が邪魔で見えない。
その後ろで金髪は佇んでいた。
ここから見ると着飾った人形のようで、少しの間見いっていた。
そのまま一歩足を踏み出すと、それと同時に金髪がこっちを見た。
「!」
俺もあっちも驚いたようで、身体が動かなくなった。
すると向こうから小さく笑い手を振ってきた。
それに小さく会釈をしたらすぐ親父さんが前に進んだので、金髪は慌てて後を追って行った。
…つくづく縁があるなぁ、俺らは。
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