▼ 02
金髪は俺と目があうと、初対面にも関わらずにこりと笑顔を見せた。
可愛いってこういう奴のことを言うんやろか。
三人の方へ歩いて行くと、ますます金髪が美人だとわかった。
身長は俺より低いのに、顔立ちは大人っぽい。きっとハーフだろう。
「…こんにちは」
一応二人に挨拶をした。
男の人はやっぱり日本人だ。
「はい、こんにちは」
「Enchante!」
え。
金髪はにこやかに俺にそう言うと、顔を近づけてきた。
え、え、おい、ちょっと待てや。
何で顔近づけんねん。しかもアンシャンテ、って何語やねん。
顔が頬に近づいてきた。これ以上近づくなと両手を前に出すと、金髪は慌てて顔を引っ込めた。
「oh!ゴメンなサイ!」
「いやいやええんやアンナちゃん。挨拶のキスくらいしたって」
ちょっと親父黙ってろ。
金髪は慣れない日本語で俺に謝り、またペコペコ頭を下げた。
日本語、喋れるんか。
金髪の隣にいる父親は楽しそうに笑い、金髪と違って握手を求めてきた。
「光くん。初めましてこんにちは。Enchante de faire votre connaissance(アンシャンテ ドゥ フェール ヴォートル コネサンス)」
こいつもか!
ちょくちょくわけわからん言葉挟むのやめろや!わからんっちゅーねん!
困り果てる俺に金髪がにこりと笑う。
「会えてウレシイ、っていう意味ヨ」
「えっ、ああ、そうなん?…どーも」
握手に応じると、二人とも嬉しそうに笑った。
それよりこれ何語やねん。いやまぁだいたい想像つくけど。多分ヨーロッパやろ。
握手を終えると、金髪がヨロシクね、と手を差し出してきた。
ああうん、と言ってとりあえず握手をしておいた。っていうか、肌白っ。
「僕らは今日ここに越してきた小野寺です。光くんのお父さんとは同級生なんだ」
「なんや、昔はお前も関西弁やったんにフランス行ってから人が変わったみたいやな」
「フランスの生活に慣れただけや。こっち娘のアンナ。母親がフランス人で、言うなればハーフだね。光くん、仲良うしたってな」
「ああ…はい」
訳がわからんが、この金髪がアンナっちゅー名前で、フランス人と日本人のハーフだとわかった。
「もうフランスには戻らんのか?嫁はんは来とらんのやろ?」
「まだわからんなぁ。ゆくゆくはどっちかで一緒に住みたいと思っとるんやけど、あっちにはまだお母さんたちがおるし。とりあえず仕事が一段落したら連絡入れるつもりや」
「そーか。…って光、お前アンナちゃんに挨拶したんか?これから長い付き合いになるんやで?」
そう言えばまだ名乗ってなかった。
「ああ…。俺フランス語わからんけど、日本語通じるん?」
「チョットだけ」
「えーと、財前光や。よろしゅう…ア、アンシャンテ?」
「Enchante!ヒカル、光。これからヨロシクね!」
びっくりしたのが日本語が上手いということ。
今までフランスに住んどったのにこの語彙力は凄い。
っていうか、母親おらんの?
父と娘二人だけで来たんか。
「四天宝寺に入ることになっとるから、光くん、アンナをよろしくな」
「はぁ…」
「同じ学年やから、友達ができるまで面倒見たってや」
え、同い年なんか。
「しっかし、アンナちゃんも物好きやのぉ。出稼ぎにきた親父とフランスから日本に来るなんて」
親父が珍しいものを見るような目で目の前の金髪を見た。
「日本の文化に興味があるゆうて、駄々こねてまで着いていくゆうたんよ。俺に似たんかなぁ」
へぇ、今時珍しい。
「とりあえず今度の休みに秋葉原行ってくるわ」
「秋ッ…!?」
思わず頭の中で復唱してしまった。
秋葉原!?この親子が!?
驚いて金髪を見たら、楽しそうに笑っていた。
「本場のメイドさん拝みに行きマース!」
「ついでに浅草でも行こうかなー思ってんねん」
「まだアニメ見とんのかお前」
「上の子は興味ないんやけどアンナはどっぷりハマってしもてなー」
「…っ…!?」
「…?どシたの、光」
俺の何かが崩壊した。
引っ越してきたのは、オタク親子だった。
02#はじめまして
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