▼ 01
ウチの近所に誰かが引っ越してくるらしい、と聞いた。
母親から聞いた話だし、新居が建てられてるのを登下校時に見ていたので本当だと思う。
まぁ、俺には関係ないんやけど。
「…ネタがつきてもーたわ…」
部活のない日曜日、俺は作曲活動に勤しむ。
01#出会い
ブログをやっていたら訪問者の人にボーカロイドをすすめられて、見事俺はハマった。
そこからの俺の飛躍は凄かった。
もともとネットには詳しいし、アニメも人並みに見ていた俺。
だがしかし、ボーカロイドにハマった俺は多方面にも手を出し、続けていた学生ブログはいつしか学生オタクブログと化していた。
飛躍というより劣化である。
もともと作曲活動に興味があった俺は趣味で収まりきれなくなった己の才能を誰かに認めてほしくなり、今やボーカロイドのプロデューサーである。
ブログ訪問者が多かったことで再生数は回りすぐ注目された。殿堂入りにはいってないけど、それでええねん。注目されすぎるのは慣れてない。まだ中学生やし。
そんな俺。
ただいま絶賛、スランプ中。
春休みに一個くらい動画上げようおもっとったけどあかん。無理や。現実は甘くない。
思いつかん。どないしよ。
学校始まったら思うように時間取れんから今しかあらへんのに。
あー駄目や。
気晴らしにブログを更新しようとスマホをいじくったものの、何を書こうか思いつかんくて、やめた。
「……腹へった」
日曜日の午前10時。
まだまだ時間あるし、ええか。気晴らしにコンビニ行こう。
コンビニに向かう途中、あの新居の前に大きなトラックが止まっていた。
「…今日なんかな」
引っ越しにくるの。
誰なんやろ。随分大きいな、家。
表札には「小野寺」とあった。
誰なんやろ、ホンマ。
コンビニからの帰り道。
アイスを食べながら来た道を戻っていると、その新居の前に見知らぬ親子がいた。
俺は目を疑った。
父親らしき男と、娘らしき女。
男のほうは遠目で見ても日本人やとわかる。
でも娘のほうは、綺麗な金髪だった。
「……地毛か?あれ」
思わず呟いてしまうほど、その髪の色は自然だった。
いやでも表札、小野寺やし。日本人…か?
不審に思いながら歩を進めると、家(新居)の中から見知った男が出てきた。
俺の親父である。
「…親父!?」
親父らしき男が家から出てきて、親子に頭を下げていた。
なんやアレ。意味分からん。
他人の振りをしよう。通りすぎたらこっちのモンや。
歩くスピードを早めなるべく気づかれないように端に移動する。
するとにこやかに会釈する親父と、バッチリ目があってしまった。
「おー光!ちょおこっち来い!」
「……」
気づかれてしもた。
その親父の声に反応するように、親子二人も俺の方を向いた。
「!」
「!」
金髪のほうとバッチリ目があった。
相手も驚いた様子で、目を見開いた。
背中まで伸びた金髪、白い肌。美人。
率直な俺の感想は、「ボカロのリリィとIAを合わせた感じ」だった。
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