▼ 15
さてさて、昨日の事件から一夜開けた今日。清々しい朝である。
清々しい朝ではあるが、俺は昨日の出来事を引きずっていた。
本屋で啖呵を切り、賢者モードにひたり厨二くさい馬鹿げた持論をあいつの前で説き、挙げ句互いの親から変な疑いをかけられ、なんで俺だけこない疲れとんねん。
あーくっそ。
昨日の女子に変な噂でも流されたらどないしよ。俺だけやのうてアンナにも迷惑やし。
って、なんで俺はこんなナチュラルにあいつを呼び捨てにしてんねん。アホか。
と、学校に来てまで小野寺のことばかり考えてしまうのは、俺の席から見える小野寺の席に、昨日と打ってかわって、席についた小野寺一人の背中しか見えないからである。
15#隣の席
駄菓子菓子、そんな小野寺を虎視眈々と狙っている奴がいた。
俺の側隣の席の、寺本である。
さっきからチラッチラ小野寺を見て一人ソワッソワしているこいつは、昨日小野寺がアニメ好きをカミングアウトした時、文字通り「ガタッ」となってホリック好きだと言った小野寺を「同士や!」と認識したのか興奮して紅潮していた女子である。
つまりこいつもオタクである。
昨日は他の女子のせいでろくすっぽコミュニケーションを取れなかったが、今日はその女子もおらず好都合だと話しかけるチャンスを伺うも、一人ソワッソワしているだけで行動に移せない、と俺は睨んだ。
それにしてもなんや、こいつオタやったんか。
それならアンナとも友達になれそうやし、俺面倒事御免やし、こいつら友達にさせたらええんちゃうか、と俺は閃いた。
「…なぁ、寺本」
「えっ、あっ、何!?」
「どもりすぎや自分。…お前、オタクやんな?」
「え?まぁ…うん」
寺本はどうやら隠れオタクではないらしく、オタクであることを恥じてはいないようですんなり肯定してきた。
まぁ下手に隠す奴より俺は好感が持てた。性格は良さげや。
ちなみに話をするのは今日が初めてである。
「小野寺、話しかけたらええやん」
「いや、なんというか…はずい。なに話したらええと思う?エヴァとか知っとるかな?」
「挨拶せずにエヴァの話は駄目やろ。っちゅーか、最初はもっとナチュラルにいけ。おはようから始めて自己紹介して、部活の話でもして来い」
「お、おお…。なかなかやるな財前」
「おおきに」
「よよよよよっしゃ!行ってくるで!」
緊張しすぎやろ。
寺本はガタガタと立ち上がり、アンナへ近づいていった。
健闘を祈る。
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