▼ 12
飯を食べて風呂に入り、部屋に一直線。
読書タイムである。
あー楽しみやなぁ、さーて今回はどないなっとんのやろ。
wktkしながら袋から漫画を取りだした。
さーて読むぞーと粋がっている俺に神様は何の恨みがあるのか。
袋から取り出したそれは、見慣れない配色の、でも見たことある絵だった。
『テガミバチ』
「……は?」
思わず声が出た。
もう一度表紙を見た。『テガミバチ』だった。
ひっくり返して裏も見た。『ジャンプコミックス』だった。
あいつが買った漫画。
テガミバチやん。
「…………?」
意味がわからんのやけど。え?なんで俺テガミバチ持ってるん?
もしかして、まさか、俺の漫画を渡してしもたんか…?
「…うわっ、まじでかっ!」
急いで携帯電話を取り、アドレス帳をいじくるって馬鹿か!俺あいつのメアド知らんっちゅーねん!
ああどないしよ、もしあの漫画をあいつに見られでもしたら…アカン!それだけは死守せなアカン!
椅子にかけてたパーカーを着て、テガミバチを袋に入れ直し、部屋を出て階段をダッシュで降りる。
間に合うか!?間に合うやろ!まだ8時半やし!階段から降りると、風呂から上がった母親がおった。
「あれ、光どこ行くんー?」
「アンナん家!」
そう言い捨て玄関に向かう。
「おー、なんや光!夜這いか!」
「ちゃうわボケ!」
居間から聞こえた親父の笑い声にイライラしながら、俺は外に出た。
12#ハプニング
アンナの家は走って30秒くらいで、結構しんどかった。チャリで来ればよかったと思ったけど引き返すのは時間のロスやし、頑張って走った。
ハァハァ息切れしながら、インターホンを鳴らした。
電気着いとるし、二人共おるやろ。
息を整えること数秒、ドアが開いた。
「あ、光くん。どうかした?」
「あっ…の、アンナいます?」
「ああ、いるよ。あがってあがって」
「いや、すぐ済むんで」
「いいからいいから」
親父さんに畳み掛けられ、半ば強引にお邪魔させられることになった。
エエんか、一人娘に用がある言うて夜訪ねてきた男を家にあげて。
中は結構、というよりやはり外観から予想した通り広かった。
ただ所々に段ボールが積み上げられていて、まだ片付けは終わっていないのがわかる。
階段をあがり一つの部屋の前で止まると、親父さんはノックをして、聞いたことのないフランス語を喋った。
多分「部屋入るぞ」的な言葉やと思う。
すると扉の奥から聞き覚えのある声、つまりアンナの声が聞こえたが、やっぱりフランス語っぽかった。
するとドアが開いた。
「Oui,qu'y a-t-il?…Oh!光」
後ろにいる俺を見て驚くアンナに、親父さんは俺に気を使ったのか、日本語を喋った。
「光くんが用があるらしいから、部屋にあげてあげなさい」
「わかリまシタ!光、イラッシャイマセー」
「何の店やねん…」
控えめにツッコむと、親父さんは俺を見た。
「じゃ、ゆっくりしていってね」
俺の返事も聞かず、親父さんは来た道を戻り階段を降りていった。
なんか誤解してへんか、オイ。
「入らナイの?」
アンナの背後に見える段ボールの数々。
「…入ってエエんか?」
「ダイジョブー。まだゴチャゴチャだけど、ベッドはあるカラー」
「ちゃう!そういうことしにきたわけやないねんこちとら!」
「?日本人が夜、異性にアイに来るのは『夜這イ』と言ってアレをするんじゃナイですか?」
「お前もかいな!」
なんでそんなピンポイントな日本語知っとんねん!
※Oui,qu'y a-t-il(ウイ キャティル) 「何か用?」
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