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どうやら家での公用語はフランス語らしい。
親父さんと電話をする小野寺のフランス語は、俺には理解できんかった。
なに言うとんのやろか。
それにしても。
まさかコイツが「テガミバチ」買うなんて、意外やわ。
11#帰り道
電話も終わり、都合上一緒に帰ることになった俺達。
まぁ迷子になられたらたまったもんやないし。っちゅーか転校初日やねんから、親父さん迎えに来てやったらええのに。結構シビアなんか?
でも、隣を歩く小野寺はそんな風に育てられた気配はしない。
…っちゅーことは、単に楽観的なだけか。
「小野寺」
「………」
「…聞いてんのか、自分」
「え、ワタシのコト?」
「他に誰がおんねん」
「Oh、ゴメンなサイ!ワタシ苗字、呼び慣れてナイくテ、分かりづらいデス。アンナって呼んで下サイ」
「…『ないくて』やのうて、『なくて』な」
指摘をすると、小野寺……アンナは苦笑いをして「なくて、なくて…」と真剣に復唱しだした。
やっぱりまだわからんのか、日本語。
まぁ、ここ大阪やしなぁ…。関西弁と混じって大変やろうけど、漫画とアニメで徐々に覚えていくようになるやろ。
…で、なんで俺はこんな心配してるんやっちゅー話や。
あーイカンイカン。今はそんなこっちゃないねん。動画や動画。
とりあえずこいつに助言して、今度から必要最低限関わらんことにしよう。お守りなんてゴメンや。こちとら野生児(金太郎)までおんねん。面倒見切れるかいな。
「アンナ」
「ハイ、何でショ?」
「あいつらとは、金輪際関わらんほうがエエ」
「……?」
「今縁切っといて正解や。あいつらはお前を、オモロイ人間とでしか見てない。珍しがられとるだけや。お前と友達になりたいなんて思っとるわけないんや。利用されて終いや。嫌かもしれんけど、日本はそういうとこやねん。せやからお前は――…」
静かにしとけ、と本人に言おうとふと隣を見ればアンナは泣くでもなく怒るでもなく、
「……?」
文字通り、キョトンとしてた。
「……」
訪れる沈黙。
冷や汗が出てきた。
オイ、待てやお前。
「…まさか自分、俺の言ったこと、伝わっとらんのか?」
「難しーニホンゴ、ワタシわからない。光の言ったコト、難しーコトバばっかでわかりまセンでシタ」
「……!」
こいっつ…!
恥ずっ!なんやこれ恥ずっ!
変に語ってしもたやないか!まるで、そう…厨二や!厨二野郎やと思われるやないか!
「…!もしかシテ、光は『厨二病』?」
「言うな!ちゃうわボケ!」
「ちゃう?…チャオ?」
「…今のは関西弁や。無理に覚えんでエエねん。…せやからお前は、今日いた奴とは仲良くなるな、って言うとんねん」
「?ナゼデスか?」
「なんでも」
「Oh!ひどいデス光!どーシテそういうコト言うデスか!?」
すると途端に怒りだした。
急なことで驚く俺。
「ちょ、声デカイからボリューム下げぇや」
「光は何も分かっていまセン!ニホン人なのに、どーしてそんなコト言うンデスか!?」
「せやから」
「光は『ツンデレ』の良さを分かってナイデス!」
啖呵を切ったアンナは真っ赤な顔で俺を睨み付けた。
当の俺は、「…………は?」と情けない声を出した。
「ツンデレ知らないんデスか!?ツンデレって言うノハ、普段ツンツンしてるキャラが、二人ダケになると途端に」
「いや知っとるわ。そういうことやないねん」
説明を中断されまたまたキョトンと首を傾げるアンナ。
ちょお待て、まさかコイツ、あいつらを「ツンデレ」や思うとるんか?
あいつらを?
…ツンデレの意味、はき違えてへんか。
「…お前から見て、あいつらはツンデレなんか?」
「モチロンネ!」
「…今、幸せか?」
「トッテモ!」
「……」
ニッコニコ笑うアンナは本当に幸せそうだった。
心配して損した。
「今日はスバラシイ日でシタ!流石萌エノ国、ニホンネ!」
「おーそうか…」
とりあえずアンナの家に着いた。
あーしんど。めっちゃ疲れた。
「せやコレ、漫画」
「Oh!アリガト光」
漫画を渡すと、また笑った。
よう笑うなぁコイツ。
「…じゃ、俺帰るわ。親父さんによろしく」
「ハイ、わかりマシタ!Salut(サリュー)!」
「…サリュー」
話を切り上げ、俺は足早に方向転換して家に向かった。
不安になって後ろを見ると、アンナは既におらず、家の中に入ったと思われた。
なんやかんやで漫画も買ってやったし、ついてへんな今日は。
とりあえず早よ風呂入って、漫画読んで寝よう。
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