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無事会計を済まし、本を受け取り小野寺の手首を掴んで、あの女共のもとへ歩く。
「おいお前ら」
「ねー…あれっ、財前くん!」
「やだー偶然!なんでおるのー?」
キャーキャー騒ぐ女子にイライラした。
後ろの小野寺は状況が理解できていないようである。
「…お前ら、なにしとんねん」
「え?」
「小野寺ほったらかしてなにしてんねん、って聞いてんのや。小野寺は難しい日本語わからんねん。初めてやねん日本は。日本円の単位もわからん。せやのになに自分らだけで楽しんでん。ちゃんと気にかけたれや」
そう言えば女四人は気まずそうに顔を逸らした。
あ、なんかスッキリした。
この際言いたいこと、言ってやろう。
「大体お前ら―…」
「光」
「!」
俺の言葉を遮るように、後ろにいた小野寺が俺の腕を掴んだ。
少し青い目が閉じられ、にこりと笑う。
「光、ワタシ大丈夫。アリガト、ございマス」
そして目の前の女子にも笑いかけた。
「皆サン、お誘いアリガトございマス。トテモ楽しいトコ、連れて来てくれテ、ワタシトテモ嬉しいヨ」
それを聞いた女子は気まずそうに苦笑いをして、またね、と呟き雑誌を片付けてそそくさと出ていった。
なんで俺が、こんな複雑な気持ちにならなアカンのか理解できん。
「……」
隣の小野寺に視線を落とした。
多分こいつが一番、複雑なんやろな。
「小野寺」
「…あ、ワタシ?なに?光」
「帰ろか。親父さん心配するんとちゃうん?」
「Oh!そーでス、遅くなる時電話する約束でした!」
スマホを取り出した小野寺。
「外出るか」
「?」
店の中で電話はまずいと思い、とりあえずまた小野寺の手首を掴んだ。
…なんか、ボディタッチが多い気がするんやけど、気のせいってことでええよな。
10#複雑
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