▼ 09
無事に入学式も終わり、放課後。
今日、小野寺は女子に連れられあっちこっち行ったり来たりしてクラスは同じとは言え俺と話すことはなかった。
とりあえずまぁ、あっちも俺がおることに気づいとるし、男の俺と話すより女の友達を作ることのほうが大事やし、まぁええんちゃうのかな。
部活もないし、早よ本屋行こう。近くにメイトがあればええのに、これだけは残念やな。
ちなみに小野寺は女子数人と早くに教室を出ていった。
どっか遊びに行くんやろか。
っちゅーか、あいつ帰り道わかるんか?
本屋に一直線、漫画コーナーには新刊が山積みしてあった。
こういう場合って、下の層の触られてなさそうなところの本取るよな。取ってまうよな。俺だけやないよなきっと。
まだ時間もあるので、面白そうな漫画を見繕うことにした。
すると視界の端に、見たことのある金髪が映った。
「…小野寺?」
目を疑ったが、確かに小野寺だった。
心なしか少し楽しそうだ。漫画コーナーではなく、雑誌コーナーに女子数人とたむろしている。
ああ、日本のファッションって結構海外からも注目されとるんか。フランスは知らんけど。
小野寺は楽しそう…だが、ちらちら漫画コーナーに目を向ける。
やっぱりこっち系にそっち系はあわんのか。
すると周りにいた女子に声を掛け、いそいそとこちらに向かってきた。
やばっ、と思い咄嗟に参考書コーナーに向かった。
何で隠れたかと言うと、よくわからんけどやばいと感じたからである。
別に買おうとしてる漫画がやばいわけではない。それは理解しろや。
ファッション雑誌で盛り上がる女子数人。小野寺を気に掛けている奴はいない。
で、肝心の小野寺は初めて見る日本の漫画に目をキラキラさせていた。
この本屋は結構広い。その分漫画コーナーも充実しとるわけやから、見繕うのも楽しいやろ。
とか思った矢先に小野寺は一冊の漫画を手に取り表紙を見たかと思うとレジへ向かった。
「は!?」
思わず声が漏れた。
嘘やろ、決めるの早っ!
あそこ立ってまだ2分も経ってないんとちゃうん!?
えー、と思いながら空いているレジに並んだ小野寺をこっそり見守る。
すると店員も小野寺もレジを挟んで焦っているようで、何処と無くぎこちない。
…まさか、と俺の中で焦点を合わせる。
サイフがない、もしくは日本円の単位がわからない
↓
小野寺混乱
↓
店員、小野寺のことを外国人だと思い日本語が通じない、あたふた
↓
誰か助けて
…うん、大体あっとるやろ。
うわぁ、これまた面倒くさい…。っちゅーか女共、連れ回した張本人やろ、ちゃんと面倒見とけや!
念を送ってもテレパシーが通じるわけもなく、女子はキャッキャキャッキャと雑誌を立ち読み。猿か。
…あーもう、行けばええんやろ行けば!
ふっ切れた俺はレジへ向かい走る。
小野寺の隣に来ると、本人は驚いた目で俺を見る。
ええから、と小野寺に呟いた。呟いた後に気づいた。何がええねん。
俺が持っていた漫画をレジに起き、サイフから千円を出す。
「これ2つ一緒に払うんで。袋は別にしてください」
店員はハッとして、わかりました、と言い千円を手に取った。
小野寺がなにか言いたそうに俺を見ていたが、正直それどころではない。
さぁ、なんて説教したろか。
09#本屋
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