立海 「失礼しましたー」
日直と言えど、やることは多いのだ。 朝、職員室に来て担任から日誌を受け取り、今日の予定を教室の後ろの黒板に書く。 毎時間の授業の号令、黒板を消す、花の水やり。放課後は残って日誌を書き、神出鬼没の担任のもとへ日誌を届ける。
楓は何個か仁王にパシらせようと考えながら、廊下を歩いていった。
「あの、ちょっと」 「え?」
階段に差し掛かると声がしたので日誌から顔をあげると、見慣れない制服を着た女子がいた。
…アレ、俺以外に転校生っていたっけ。
下級生?もとからいた子?
記憶を探ってもヒットしないので、楓は考えるのをやめた。
女子はワイシャツの袖を捲っており、赤いネクタイ、そして短いチェックのスカート。多分何回か折っているんだろう。 そこから導きだされた結果は、「今時な女子」だった。
そんな今時な女子との距離は2メートル弱。
誰だろ、この子。
不思議がる楓をよそに、女子はてくてくと近づいてきた。 二人の距離は一気に縮まり、楓は慌てて一歩下がった。
近い近い近い近いって、なにこの子肉食系?あ、結構かわいい顔してる、と楓は女子を分析した。
一方女子も楓を観察しているようで、まじまじと見つめて、目を細めた。
「君、ここの生徒?」 「きっ…ああ、うんそうです」
相手のことを「君」と言う女子を初めて見た楓は、内心爆笑していたが顔には出さなかった。
っていうかこの学校にいる時点でこの生徒だってわかるだろう、と当たり前のことを思った楓。
「違うって言ったらどうする?」
って言ってたらどんな反応するだろうと時を戻したくなった。
「そう。あの、職員室ってどこ?迷っちゃって」 「職員室?…その前に、あんたここの学校の生徒じゃないよね?部外者は許可なしに入っちゃいかんのだけど」 「ん?ああ、私は今日からここの生徒。季節外れの転校生。自分で言うのもなんだけどね」
ほう、転校生。
こりゃまた中途半端な時季に。お父さんのお仕事大変なんだね。
楓は自分が転校してきたときのことを思いだし、懐かしくなった。
「あ、そうなんだ、それは失礼。職員室はこの廊下まっすぐ行けばあるよ」 「そう、ありがとう。助かったわ」 「どういたしまして。…ああ、それから、その手のシュシュ。職員室入るときは取っておいたほうがいいかも」 「…ご忠告どうも」
女子はまたまじまじと楓を観察した。
「ねえ、もしかして君って生徒会長だったりする?」 「は?いや…違うけど」
すると女子は残念そうにそう、と呟き楓の横を通り過ぎた。
「あ、ちょっと待って」 「!…なに?」
楓が呼び止めると女子は振り返り、足を止めた。
「どっから来たの?名前教えてよ」 「…福岡から。名前は宮野しずく、よ。じゃあ、君の名前も教えてよ」 「俺は七条楓。三年生。…やべ、時間…じゃあまたね、宮野さん!」
時間を忘れていた楓は急いで階段を上がった。
「あれ、楓じゃん。なにしてんの?」 「!ブン太…」
階段の数段上にブン太らテニス部三年がいた。
「あ、お前日直だっけ?」 「オーイエス。雅治、お前何個か手伝って」 「なんかくれるならやってやらんでもないナリ」 「フッ、悪いが俺はそんなもんに興味はない。四の五の言わず手伝いやがれ」 「あだっ」
仁王の背中を叩き、楓も輪の中にまざった。
そういえば学年集会って、宮野さんのことでか、と、職員室のホワイトボードに書かれていた今日の連絡事項を思い出しながら。
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