立海
学年集会で転校生の宮野さんの紹介が行われ、今日から俺たち三年の一員になったと発表された。
宮野さんがどのクラスに入るかなんだけれども、もともと俺のクラスは他のクラスより人数が一人少なかったので皆どうせB組だろと噂していたけど本当にB組だった。

「戸松さんどう思う?」
「え?」

今はもう教室で、担任と転校生が来るのを待つだけ。
その間ちょっと暇だったので、隣の席の戸松さんに話しかけてみた。

「転校生」
「あっ…ああ、あの人ね。うーん…たった一年だけど仲良くやれたらいいなぁとは思うよ」

戸松さんは俺の質問にちゃんと答えてくれた。しかも否定も肯定もしないという完璧な答えだった。

「でもなんか、性格キツそうじゃない?」
「そうかな?きっと緊張してたんだと思うよ」
「…ごめん、俺が汚れてた」
「えっ、なに急に!?」

人の嫌なところしか見えない人間になってる気がする。

「ちくしょー。今の現状より悪くなるくらいなら転校生なんていらねーとか思ってる自分が嫌だー」
「ああ、わかる」

戸松さんの隣、つまり俺の隣の隣に座っている雅治が数学のワークを答えを見て解きながら言った。

「仲いいグループに一人追加されると途端に仲が悪くなるっちゅう、人間特有のアレな」
「女子は特にね。七条くんって結構回りの変化に敏感なんだね。仁王くんも」
「まぁ今に満足してるからさー。贅沢者なんだよ」
「それより今さら転校生って、急すぎじゃろ」
「世の中には色んな職業のお父さんがいるんだよ雅治」
「なら親父だけ行けばええじゃろ。わざわざ今年受験生の娘まで連れて異郷の地で受験するのはどうかと思うぜよ」
「家庭の事情じゃね?俺もそうだし」
「あ…そっか。七条くんも考えてみればそういう感じだよね」

そうそう、と相づちを打とうとしたらガラガラと教室のドアがあいて、先生と転校生、宮野さんがやってきた。

俺も戸松さんも背筋を伸ばして前を見た。ちなみに雅治はまだワークをやってた。

「はい、日直号令」

ああ、俺か。

「きりーつ、注目、礼」

おはようございます、とそれほど大きくない声が教室に響いた。
着席、と言って席につく。日直の仕事めんどくさいなぁ。

「はい、じゃあね、今日から宮野がクラスの一員になります。受験の時期でね、大変だとは思いますが、一年仲良くしていきましょう」
「…宮野しずくです。よろしくお願いします」

宮野さんが一礼すると拍手が起こったので、俺も一応拍手をしておいた。
俺がこっち来たとき拍手された覚えないんだけど。

なるほど、女だからですかそーですか。

「じゃ、宮野の席はそこ。仁王、手あげろ」

先生のご指名に、雅治はげ、と呟き、俺を含める周囲の奴らがくすくす笑った。

雅治はしぶしぶといった様子で右手を上げたけれど、左手と視線は数学のワークにあった。
こんな時くらい前見ろよ。

「あいつの後ろ。一番後ろだけど不備があったら言いなさい」
「わかりました」

宮野さんは雅治へ近づいて行くけれど、雅治は依然としてワークを解いていた。

宮野さんは俺に気づいたかな。

席についたのか後ろからガタガタと音がして、先生がまたなにか話し始めた。

なんだかなぁ。なんとなく取っつきにくい雰囲気出てますよ、宮野さん。

後ろの宮野さんを盗み見していたけど目があうことはなかった。
宮野さんはじーっと、目の前の雅治を見ていた。どうやら雅治を気に入ったらしい。

でも雅治は振り返ることもなく、急いでワークの答えを写していた。