私の不機嫌な顔を察したのか、黄瀬はすみませんと謝罪をして、説明するんでどっか店入りましょうと言い私を人の少ない喫茶店へ連行した。
なんだこれは。
どうしてこうなった。
ドッキリか。クラス全員がグルになったドッキリか。だとしたら、だとしても笑えない。
私の脳は一重に「騙された」としかこの状況を理解、判断できない。
目の前に座った黄瀬は、私に何の断りもなく、来た店員にアイスコーヒー2つ、と注文をした。どうせならオレンジジュースがよかった。
店員が去る。
私を見る。ヘラリと笑い再び沈黙。
どうする黄瀬涼太。挽回するなら今のうちだ、と内心強がってみたものの、外観は黄瀬と同じで苦笑いを浮かべている。
本当に、なんですかこれは。
「……あの、黄瀬くん」
「すいませんでした!」
いきなり謝られた。
黄瀬は頭を下げ、私はまた意味が分からなくなる。
「…うん?」
「…騙してたんス、俺…」
「そんな気はした」
「あ、いや、苗字さんを馬鹿にしようとかそういうのじゃないっス!本当に!」
「じゃあ、何で?打ち上げも嘘なんでしょ?」
「…すみません、これしか理由がなくて」
さっきから謝りまくり。
これがモデルなのかよオイ。
「…私に何か用だったの?」
「はい、あの苗字さん、彼氏いますか?」
「…………は?」
我ながら呆けた声が出たと思った。
まさか、と少女漫画のような展開が頭を過ったけど、私と黄瀬である。それはない。
黄瀬の目が若干真剣なのが気になるが、きっと違う。
ふひひひひ、なんか笑いたくなってきた。作り笑顔、できてるかな。
どう答えようか悩んで、とりあえず本当のことを言うことにした。
「…いない」
「じゃあ、今彼氏欲しいですか?」
これ、何て拷問?
「……よくわかんない」
「あの、苗字さん。俺苗字さんが好きです。本当に。今日こうして嘘ついたのもこれ言う為だったんス…だったんです!」
「……うん?」
「し、信じてないんスね…。あの、本当です。俺苗字さんが好きで、よければ付き合いたいと思ってますから」
「…………はぁ…」
まさかの展開である。
まさかすぎてついていけない。
これこそ笑いない嘘っぱちじゃん。
こんな現実、あっていいはずがない。
ところで店員、アイスコーヒーはまだか。
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