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「ムカつく」
「ええ、本当に」
「最悪よ」
「ファンやめる」

口々にそんな声が耳に入ってくる。その声は全員女。そう、彼女達は絶望しているのだ。氷帝学園男子テニス部に。
玄関に貼られた6枚の写真の回りには、たくさんの生徒がいる。
一枚目は、男子テニス部部長とマネージャーがキスをしている写真。
二枚目は、氷帝の天才がマネージャーを抱きしめている写真。
三枚目は、男子テニス部のレギュラー陣が、女子を殴っている写真。
四枚目、五枚目六枚目……

泣く者もいれば、口を開けて呆然と佇む者もいた。その場から少し離れたところで私はそれを傍観する。
泣き叫びながら走り去っていく人間を見ると笑いが込み上げてくるから不思議だ。
なぜ泣くのかって?
それは多分、彼らが大好きだったのに裏切られたからじゃないかな?

次々に生徒がやってきて、小さく叫んだり、携帯をかざす者まで出てきた。いやぁ、面白い。
そんな様子を眺めていると、その輪の中から1人の女子生徒と目があった。泣きそうな顔をしてこちらに近づいてくる。

「……あなたが、やったの?」

小さな声で言った。
その言葉に、私は笑いが込み上げてきた。口角あげて、なるべく優しい目をして、私は言った。

「……そうだって言ったら、君はどうする?」

すると彼女は目を見開いて、静かに涙を流した。




はじめまして、だよね?私は折原心亜。
あ、いいよ、まだろくに喋れないでしょ?ショックが大きいだろうし。
だから君が聞きたいであろう事を喋るから、聞き流してもらってもいい。

さてと、じゃあ。
あの写真をどうやって撮ったか教えようか。

テニス部ファンクラブ会長とかいう女に、マネージャーをやめさせたいから練習の邪魔をしている様子を撮ってきて、と言われたのが最初なんだよね。
何やら私を何でも屋だと勘違いしてるらしいんだけど、私はフリーだからね。
いやぁ図々しいモンだ。やめさせたいから、ときた。完全に自分の我儘だよ。人間の欲は恐ろしいね。自分よければ全て良し。他人が悲しもうが何を思おうがどうでもいいと考える人間はやっぱり面白いなぁ。見ていて飽きないよ。
だから私も承諾したんだよね。
退屈しのぎにちょうどいいし。

たったそれだけの理由だったんだけど近づいてみると見えなかったものまで見えてきたから面白い。
見えてきたのは人間の愛憎模様。愛より醜く面白いものはないからねぇ。
その証拠があの写真ってわけなんだけど。

あ、なぜあんな事をしたかっていうとさ、暇だから?
うん、それがしっくりくる。
あとはそうだな、楽しそうだから。
心酔していた男子テニス部に裏切られた生徒達が何をするのか、そしてテニス部の奴らもどうするのか楽しみだしね。大会不参加になったりとかしたらますます楽しいよね。

人間ってのはさ、単純なんだよ。その上欲深く、執着心があって、自分に絶対の自信がある。
そしてよく惑わされるんだ。
心の中では否定したい気持ちがあるけど、心のどっかでは認めているんだよ。

これだから人間は飽きないんだ。

「君もそう思わないかい?生徒会長及び男子テニス部部長跡部景吾の彼女、新島まゆさん」


折原さんはそう言うと、優しいけれど歪んでいる笑顔を私に向けた。



付き合ったのは2年の夏ごろで、彼から告白されたの。
すごく嬉しかった。

彼ね、私がテニス部の応援をしてるのを知ってたんだって。
それを見て好きになったって。
今度から俺だけを応援してくれって言ってね。私も了承したの。だってね、私も好きだったし、なんだか付き合うことが当たり前だって言わんばかりの迫力があったから。
そうして付き合いだしたの。すごく楽しかった。

彼女が来るまでは。

マネージャーの花園さんに全て壊された。
私と彼の関係も、テニス部も。不安だった。とっても。
でも信じてた。信じてたのに、裏切られた。

折原さんのせいじゃないけど、彼と花園さんがとても憎い。
でも内心気づいてた。
だってね、彼女がきてから彼、私と距離を置いてたの。
最後の部活だからテニスに集中したいとか言ってたけど多分嘘。

だって、彼も含めてテニス部のみんな、全く練習してなかったから。
それに、すごく笑ってたの。
花園さんと話してるとき、すごく笑ってたの。でも信じてたの。でも、結局私が裏切られた。


「自分も彼も花園さんも憎い。全部憎い」
「うん」
「折原さんには、少し感謝してるの」
「へぇ。でも正しいとは思ってないでしょ?」
「ええ、そうね。でも踏ん切りがついた」
「どんな?」

私がそういうと、彼女は顔をあげ、私の顔を見た。

「私は、もう彼らを守らない」

それだけ言った。
だけど私にはその心理がわかるよ新島さん。単純に君は、彼らを陥れたいんだ。

「……よく言ったね新島さん」

そう言って腕を広げた。

「でも強がる必要はないんだ。自分1人で抱え込む必要も、自分1人で戦う必要もない。まだ君は悲しいんだ。流しきれてない涙を流していいんだよ。今ここには私しかいない」


…―――さぁ、おいで。


そう言うと彼女の瞳が揺らぎ、涙をぽろぽろ溢しながら、私に駆け寄ってきた。
うぁあああ、と泣き叫ぶ彼女の頭を優しく撫でる。
ああ、やはり人間は面白い。
これだから私は、人間が大好きだ。
同情を買えば寄ってくる。なんてよくできた世界なんだろう。
彼女を優しく抱擁しながら笑った。
どんな笑いかだって?ご想像に、お任せするよ。

「辛かっただろう悲しかっただろう憎かっただろう」
「ううっ、うっ、ぁぁ」
「でも大丈夫。一緒にやっていこうじゃないか?ねぇ?」
「うわぁあああっ!!」

泣け泣け。泣いてしまえ。その涙が私の糧となる。ゲームを、始めようじゃないか。


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テーマ「人外ファンタジー」
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