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罵詈雑言を浴びられながら、私は視界がぼやけていくのがわかった。何分たったのかな。それさえわからない。
ああ、痛いよ。苦しいよ。なんで私が…?

「うっ!!」
「悲劇のヒロイン気取ってんじゃねーよ」

女子の足がお腹に入った。
痛い、痛いよ。涙さえ、出てこない。跡部くん、助けて。

「誰も助けにこねぇっつの」
「あんたのせいでテニス部も居場所がねぇんだよ」
「死ね」

私のせい?
……そうだよね。でも、だってみんなが…。私を可愛いって言ってくれてて……。

「うぐっ!!」

またお腹に蹴りが入った。
何回目かわからない。痛みに耐えられなくなって膝をついた。

「あんたがいたから滅茶苦茶よ!」
「ほんと最低!死ね!」

私が、いるから…。私が、いなくなればいいの…?
女子の1人が私の髪を引っ張り、私を立たせた。

「言っとくけど、あんたは取り返しのつかないことしたのよ」
「償いなさいよ…!」

女子のリーダー格の人が、拳をつくった。
殴られる。
そうとらえた私に、流れなかった涙が一筋流れた。

「死ね!!」

憎悪がこもった言葉。
そういえば、廊下ですれ違った向日くんが、顔にガーゼ貼ってた。向日くんも、こんな感じだったのかな…。
ごめんなさい、と懺悔をして目を閉じた。

すると、一人の女子の小さな悲鳴が聞こえた。

「!どうかしっ…」

リーダー格の女子も、驚いて口を開いた。
私もびっくりして目を開けた。
そこには


「イジメ、よくない。カッコ悪い」


なんて言って、肩に手を置いた女子生徒がいた。



「駄目だなー。このご時世、こんな事したら大変なんだから」

勝手にペラペラ喋りだすこの人は、前に何回か見かけたことある。
名前は…わからないけど。

「それイジメっていうか、リンチだよね?リンチ、駄目、絶対」
「な、なんだよ!」

肩に手を置かれた女子は、その手を振りほどいた。

「関係ないだろ!」
「そうだね関係ない。君たちがその子を殴り殺そうが刺し殺そうが私にはなんら関係ない」
「じゃあさっさとどっか行けよ!」
「だが残念。私の少しの良心が君たちの行為が許せないと訴えかけてくるのだよ」
「ハァ!?何言って…」
「つまりはさぁ、私が隠し撮りしたそのリンチ写真ばらまかれたくなかったら、さっさと消えろって意味」

その女子生徒は携帯の画面を見せていたが、私の位置からは見えなかった。
でも女子生徒達は顔面蒼白になって、逃げるように私から消えて行った。

何が起こったかわからない。
呆然としてる私に、女子生徒は笑いながら私に近寄ってきた。

「探したよー花園さん。教室にもトイレにもいないんだもん。さて、お話しようか」

「君は、君が置かれてる立場わかってる?」
「……」
「あ、責めてるわけじゃないんだよ?」

花園さんは腹部を押さえながらのろのろとその場に座り込んだ。
髪はボサボサ、顔はあまりいじられてないらしい。

「まぁ、手っ取り早く言えば、三角形の底辺に仲良くテニス部と一緒にいるんだけどね」
「…!」

するとひどく傷ついた顔をした。

「君って、何?あいつらと仲いいの?あ、テニス部のことね。キスする仲だったの?」
「違うっ!あの写真は跡部くんが…勝手に、私に…。忍足くんだって、勝手に…」
「じゃああのテニス部が女子生徒殴った写真は?」
「…あれは、初めて見た…。多分、私をいじめてた女子…だと思う」
「ふぅん」

どんなミーハーかな、とか思ってたけど、どうやら無自覚らしい。
裏もない。いいとこのお嬢様か。と、なるとさながらあいつらは姫を守る騎士か。
滑稽な物語だね。

「あなたは?」
「ん?」
「…誰なの?」
「あ、初めまして。折原心亜です。手っ取り早く言うと、あの写真はった犯人」

そう言うと花園さんは絶望に満ちた顔を私に向けた。

「ひどい…!なんでそんな事をっ…!」
「うん、今のは怒るとこだ。まだ君には生きる希望があるらしいね」

花園さんと目をあわせる為に、私はしゃがんだ。

「私は君を助けることができるけどどうする?」
「…え?」
「助けてあげようか?」
「……」
「君を前いた位置に戻してあげる」
「…本当?」

希望が見えたのか、花園さんの頬は褐色がよくなった。でも、いい話には悪い話も必ずついてくるんだ。

「でも、その変わりテニス部を見捨てて裏切ることになるけどね」
「!」

そういうと花園さんの顔は一気に悲しくなった。

「仲間だった彼らを裏切るか、仲間だったと思ってたのに君に不埒な行為をした彼らを見捨てるかの、どちらかだ」
「………」
「ゆっくり悩んでくれたまえ。返事はいつでもいいよ」
「……助けて、くれるの?」
「あんな事しちゃったけど、私にも良心があるんだ」
「……」
「どうする?」


「……助けて……!」


涙を溢した花園さんに、私は最高の笑みで向かえた。


「そうこなくっちゃ」







それから先は簡単なことだ。
テニス部と縁を切って、花園さんが無害だと学園中に知らせ、一斉に彼らに的を絞ればいいだけだ。その間の出来事なんて語るに値しないものだったから省くけど。

そんな最中、一人のテニス部員が自殺未遂に陥ってしまったらしい。心配性な跡部くんは付きっきりで看病してるとかなんとか。

花園さんは変わったねー。
あんな純粋だったのが今じゃただの性悪女だからね。ちなみにまだ交流はしてるよ。

ああ、テニス部ファンクラブは解散したらしいよ。ファンクラブの会長も私にお礼を言ったあと、この学校を辞めた。責任感があるよねぇ。

で、今テニス部は仲良く地べたを這いずっています。
裏切られ、失い、いろんな絶望をみた彼ら。
どうやって、彼らがまたキングへ返り咲くかなぁ。
ああ、楽しみだ。楽しみでたまらない!


屋上のドアが開いた。

「…折原心亜だよね?」
「…誰?」

芥川、と男子生徒は名乗った。
顔にはガーゼ、腕には包帯をしていた。

「いかにも、私は折原心亜だよ」
「……頼みが、あるんだ」
「何?」
「…テニス部を、助けてください…!!」

芥川くんは頭を下げた。
私は笑って言った。


「どうしよっかなぁ」


end

→あとがき


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