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「……!」

屋上のドアを開けると、新島と知らない女がいた。




「…案外早かったね」

入ってきた人間を見て、自嘲気味に笑う。新島さんはまだ泣いている。
目を見開いている彼らを見ていたら笑いたくなってきた。

「…新島さん、彼らが来たよ。君の口から伝えたほうがいいんじゃないのかな?」

新島さんは涙を拭き取り、顔だけ彼らに向けた。
そんな新島さんを見て、跡部景吾は動揺を隠せない顔をした。

「……大っ嫌い」
「!」
「あんたなんか!あんたたちなんか大嫌い!」
「おいまゆ、ちょっと待…」
「うるさい!!」

新島さんが叫んだ。
それを聞いてレギュラー全員がたじろいだ。
うわぁ、おもしろ。素晴らしき人間関係。口元が緩んでしまう。

「嫌い嫌い嫌い嫌い!!最低!!」
「だからまゆっ…」
「名前で呼ばないで!」
「!ッ…」

ポタポタと涙か落ちる。彼女がどれだけ溜め込んでいたのかそれを見てわかった。

「……あんたなんかと…」
「……」
「あんたなんかと付き合ったのが私の最大の過ちだった!もう顔なんて見たくないっ!」

そう泣き叫び、彼女は走って屋上を出ていった。
横をすり抜けて行った彼女を、彼らはどう思ってたのかなぁ。
誰一人そこを動くことなかった。



「……ブラボー」

パチパチパチ。

静寂に包まれた空間に、渇いた拍手がなり始めた。勿論、拍手をしているのは私だ。
その拍手の音を聞いて、彼らは一斉に私を睨んできた。うわぁ怖い。

「いやぁ面白いものを見せてもらった。これ以上ない滑稽な舞台だったよ」
「てめぇか…!」
「何が?写真を撮ったのが?写真をはったのが?新島さんをけしかけて君と別れさせたのが?君たち全員陥れようとしたのが?」
「…!」
「大正解。全て私がやりました」

にこっと笑ったら殺意丸出しの顔を向けてきた跡部景吾。
おいおいやめとけよ。
これ以上問題起こしたら、君たち本当におしまいだぜ?
全員に焦りの色が見えている。

「一応言っとくけど、私は君たちを恨んでいるとか好きだとか嫌いだとかそんな感情持ってないよ」
「だったら何であんなっ…」

おかっぱくんが叫んだ。
うーん何で?そんなの簡単。

「頼まれたから」
「!?」
「テニス部ファンクラブ会長とかいう女。君たちのマネージャーが嫌いだからとか言ってね。仕事妨害してる写真撮ってって言われてね。あ、勿論タダじゃないよ?」
「仕事妨害!?美咲先輩はそんなことしてませんっ」

今度は長身くんが叫んだ。
美咲って言うのか。花園美咲。なんだかできた名前だねぇ。

「そうだ!美咲は俺たちをちゃんとサポートして」
「ないよねぇ」
「!なっ…」

短髪くんを睨んだらそれ以上何も言わなかった。

「してないしてない。あの写真見た?キスにハグに練習風景。何もしてないじゃないか。君たちが練習をしていないという意識があったとしても彼女のやってることは練習妨害。一週間君たち見てて思ったんだけど君たちろくにラケット握ってないでしょ」
「!」

図星かな?図星だよねぇ。
コートの中でもイチャイチャイチャイチャ。練習していたのは平部員だけだった。

「本っ当、レギュラーが聞いて呆れるわ」
「…」

眼鏡くんに睨まれたけど、私なんか間違ったこと言ったっけ?正論じゃない?

いやでもしかし。男は馬鹿な生き物だというけどこれほどまでとはね。

「女一人にこのザマはないわ。馬鹿馬鹿しい」

そう言うと全員顔を歪ませた。

「いや…二人かな?」

新島さんが出ていったドアを見て言った。
跡部景吾は依然私を睨んだまま。新島まゆには目もくれていない。

「君も薄情だね跡部くん。さっきのは後を追うべきじゃないのかな?」
「今の俺に…後を追う資格はねぇ」
「うんうんそうだね。私が新島さんでも君みたいなのには後を追ってもらいたくないね」
「てめぇ…!」
「本当のことだ」

さっきのを聞いて怒ったのなら、まだ精神は滅んでいないらしい。つくづくキングに向いてる人だ。

「…自分、何者や。俺らに楯突いて勝つ気でおるんか?」
「勝つも負けるもそんなんとっくに決まってるよ」

重い腰をあげ、策に寄りかかった。目の前にいる全員の顔に、活気など残っていなかった。

「君たちはもう敗者でしかない。逃げ道もなければ勝算もない。居場所もなくなる。勿論、花園美咲も同様だ」

そして私は王手をかけた。



「よかったじゃないか。地べた這いずる仲間がいただけで。しかも君たちが大切に守ってきた女と一緒。うんうん、実にラッキーだ。おめでとう。パチパチパチー」

目の前の女は瞬き一つせずに言った。

「親の権力でどうこうできる問題じゃないよねぇ。引っ越したりしたほうがいいんじゃないかな」

淡々と言葉を述べた。

「でも私はまだ君たちを見ていたい。地べたを這いずる姿を見ていたい。この先どうなるかを見ていたい」

何を言っているんだ。
俺たちが、俺様が、こんな女に何を言わせてるんだ。

「だから人間は面白い、だろ?」

にっこり笑った次の瞬間、笑顔とは180度違う、まさに、そう。歪んだ心を顔に写したような、不適な笑みを返した。
その時小さく口が開いたが何て言っているのか聞き取れなかった。

何なんだ、これは。

女はまたにっこり笑って、俺たちをすり抜けて屋上を出た。
渦巻いた恐怖と憎悪が、俺たちを包み込んだ。



「!」
「…」

扉を開けてすぐ目に入ってきた。大柄な男と、細身の男。

あー、何か見たことあると思ったら。

「テニス部か。行かなくていいの?」
「…俺はレギュラーじゃないからね」
「……」
「……君、たしか跡部景吾の後輩だよね。よく一緒にいる」

大柄な男子生徒は確かに見覚えがある。こんなところで何をしてるのかな。

「…自分は…跡部さんを、慕っています」
「ふぅん?」
「…あなたを、許しません」
「ああいいよ。わざわざ私に味方しなくても君の道をいけばいい。君もだ。彼らを慕う身なら、まぁ頑張れ。でも」

そんな友情でどうこうできる問題じゃないんだよね。

「警告だ。彼らといるのはあまりオススメしない。自分が大事なら、自分を守りな。ね?」
「……君は、何がしたいんだ」
「さぁね」

そう言うと細身の男は私を睨んだ。

「いくらなんでもやりすぎだ。花園だけでよかったはずだろ。俺たちテニス部まで、陥れる理由はなかったはずだ」
「いやぁ、自己中だね」
「…?」
「花園さんだけでよかった、なんて思ってる内は駄目だよ。第一、花園さんだけが原因じゃないはずだ。彼女を取り巻く関係と人間が全ての原因だ。つまり「彼ら」。花園さんだけを陥れたからって根本的な解決にはならない。そう思わないかい?」
「…」

私がそういうと彼は口をつぐんだ。なんだ。口ほどでもないじゃん。

「だから私はああしてやった。だから君らも気を付けな。明日……いや、今日からゲームが始まるだろうからね。今のうちに誤解を解くか、逃げたほうがいい。まぁ…手遅れかも、ね」

ゲームなんてただの隠語。イジメが始まるよ。


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