ネウロパロ2

「仁王くん」
「!」


腕を引っ張られた。
いたのは折原心亜だった。


「…何か用か?」
「速水から聞いたよ。変装の名人なんだって?」
「…?」
「面白いもん見せてあげるから、頼み事聞いてくれない?」
「は」


「警察のフリ、してほしいの」








九分九厘、同席していた男性が犯人だと誰もが思ったそのとき、待ってください、と声がした。


「お客さん全員、事件発生時と同じ席へ。今から、先ほどおきた事件の推理を説明します」


警察官が言った。その隣には心亜もいる。
何をする気なの、とアイコンタクトを送ったら一方的に遮断され、私は一人席についた。

他の警察官の人たちが動揺していたけれど、もう皆席についてしまったので今さらやめろとも言えない。
隣にいる心亜には誰もつっこまなかった。


「!…仁王は?」
「え?」
「…!」


一角から聞こえた丸井たちの声。
確かに仁王がいない。

ちょっと待って、と言おうとしたら「さて、」と心亜が口を開いた。
まるで私を制止するかのように。


「まず、犯人は彼ではありません」
「えっ?」


心亜が指差した、同席していた男性を見て皆声をあげた。


「真っ先に自分が疑われるのにこんなとこで殺しはしない」
「…ちょっと待てお嬢ちゃん。俺らは探偵ごっこに付き合ってる場合じゃねぇんだぞ」
「文句は、私より筋のある推理を述べてからにしてください」
「ちょっ、心亜っ…」
「ハチ、お前の座ってるソファーの隙間。なにがあるか探してみな」
「えっ…?」


ソファーの隙間。毒物のビンが見つかった場所だ。


「皆さんも探してみてください」


心亜がそう言うと、座っている人全員、恐る恐る手を中に入れた。
すると、何かが指先に触れた。
慌てて取り出すと、それは小瓶だった。


「心理の盲点です。一つ見つかれば普通他は調べない」
「…!これ…!?」
「毒物のビンだよ。きっとその周辺に同じやつが入ってるはずです。犯人があらかじめ仕込んだ。被害者がどの席に座ってもその同席者に容疑が向くように。では犯人はどこに毒を塗ったか」


そこまでいうと、心亜はチラ、と隣にいる警察官に目配せした。
警察官は咳払いをし、間をあけて言った。


「…厨房を調べましたが、毒物は検出されませんでした」
「ってことは厨房はシロ。ではどこか。実は私見ていたんです、被害者がトイレを出入りしたのを。つまり結論から言えば、犯人が毒を塗ったのはトイレから出るときにつかむドアのノブです。それができるのは誰か。被害者の後にトイレに入り、且つ毒を塗り、且つ被害者が出たあとまたトイレに入り、毒を拭き取ることが出来た人物。それを容易に行うには――そこの、トイレの脇の席のあなたにしかできない」
「……!?」


流れるような推理で犯人を突き止めた心亜は、笑っていた。


「じっ…冗談じゃない!偶然この席に座っていただけでっ…!」


その席に座っていた女性は、立ち上がり猛抗議した。

しかし心亜は続ける。


「私は見ていました。あなたが被害者の後にトイレに入り、先に出てくるのを。そして、警察が来るまでの時間、あなたは体調不良を訴えトイレに向かったのはここにいる全員が知っている」
「化粧直しよ!文句あるの!?」


怒鳴る女性のもとに、隣にいた警察官が近づいた。


「安物のウィッグはずれやすい。そのお直しか?」
「えっ…?」


警察官が髪を軽く引っ張ると、ばさっ、と茶色い髪が落ちた。
そして見えた、地毛。


「あっ!?」
「変装なら、もっと徹底的にやるべきだったな。眼鏡も伊達か」
「…!?」
「犯人が被害者と顔見知りなら、当然変装が必要。…ですよね?お巡りさん」


心亜がわざとらしく同意を求めると、警察官はそれが合図と言わんばかりに、席にあった灰皿を手にした。


「…それに、あんたの席には決定的な違和感がある。ここは喫煙席だ。なぜ一本も吸わない?」
「!」
「従業員から聞いた。あんたはだいぶ前にここに来てわざわざ喫煙席のこの席を選んだ、でも灰皿には一本の煙草もない」
「タ…バコを、きらして」


女性がすぐさま弁解したが、心亜はそれを許さない。


「それはおかしい。入り口のすぐそば、あんなわかりやすい位置に自販機があるのに!」


ビシッと指差された先には、確かに自販機があった。女性はうろた始めた。


「あなたは煙草を吸わない。そうでしょう。しかし禁煙席はかなり遠い。トイレに入る人の様子がわかりにくい。一目にもつく、時間がかかる。なにより被害者は喫煙席なので遠いと様子がわからない。犯行のタイミングをつかみ損ねる。だからあなたは吸いもしないのに喫煙席を選びここに座った!」
「…!!」

心亜の説明が終わると、コト、と警察官が灰皿を机に置いた。


「裏付けるように、従業員が記憶をたどってくれた。あんたとおぼしき女性はこのところ毎日来店し、喫煙側の様々な席に座り、最近はこのトイレ脇の席を選び、煙草も吸わずにいた、と」
「つまりあなたは準備をしていたわけですね?そして待っていた。殺しに最適な条件が起きるまで。息を潜めてこの席で!」
「…まだ持ってるだろ、犯行に使った毒と、それを拭いた布が」


女性の鞄の中身を机の上に広げると、警察官は袋に入った小瓶とタオルを女性に突きつけた。

力なくその場に崩れ落ちた女性。

その場を離れる警察官。
心亜だけがニヤリと笑った。


「これで私たちの推理は終わりです。なにか質問は?」


するわけないだろ馬鹿野郎。



つづく


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