ネウロパロ
心亜につれられやって来たのはファミレスだった。特におかしなこともない。
安心していた私がお冷やを飲んで、心亜が何かを話すのを待っていた。理由も無しにこんなとこに連れてくるのはおかしい、と直感が語っていたから。
だから私はその時気づくべきだった。
心亜が終始、笑っていたことに。
「来たか」
「へっ?」
心亜は通路を見た。
私もつられて通路を見たけど、通ったのはおじさん。
知り合いかと思ったけど双方、これといって挨拶もしなかった。
じゃあ何が来たんだろう。
私はまたお冷やを手に取る。
そして心亜は背筋を伸ばし、椅子にもたれた。
「ゲボァッ!!!」
突如聞こえた呻き声。
さっき通ったおじさんが――一目で致死量とわかる血を吐いて、テーブルへ落ちていった。
「……!?」
突如おきた惨劇に目を疑っていると、心亜はもたれかかりながら私を見下ろした。
「出番だ、生徒会長」
「…はっ!?」
「私は、あんたのカリスマ性を買ってるんだ。慌てふためくこの店内を、少しの間でいいから落ち着かせろ。その隙に私が警察と救急車を呼ぶ」
私の返事も聞かず、心亜は携帯を取り出した。
わからない。まだ、何がなんだかわからない。でも、そうだ。これは私が前々から望んでいたことかもしれない。
冷や汗をかきながら私は立ち上がっていた。
「…みなさん!落ち着いてください!とりあえずその場を動かないで!!警察がくるまで、何も手にしないで!!」
「!速水っ…?」
聞いたことある声が聞こえた。
振り返ると、店の一角には仁王たちを含めたテニス部が数人いた。声の主は仁王だった。
「仁王…あのっ、とりあえず落ち着いて!警察をよんでますから!仁王!厨房のひとたちにも声かけてこよう!」
「…!わかった!」
仁王は一瞬、私の前に座り電話をかけている心亜を見て顔を歪ませた。
そして心亜も仁王を見て、冷たい目をして眉をひそめた。
警察が着いた。
毒物が出たらしく、店内にいる人は皆その場に拘束された。
偶然会った仁王、柳生、丸井、桑原と固まって警察の人たちの話を聞いていた。
けれど心亜だけは私たちと数歩離れた位置にいた。
犯人の目星とまではいかないけれど、真っ先に疑われる人物はいる。
被害者と一緒に食事をしていた部下の人だ。
予想通りというか、やはり警察は彼を先に調べだした。バックにはなにもなかったけれどソファーに毒物が入った小瓶が見つかり騒ぎ始めた。
でも…違う。こんな結末、馬鹿げてる。
本能的にそう思った私は、いつのまにか心亜の隣にいた。
「…ねぇ、心亜。あの人、犯人じゃない…よね?」
「なんで?」
「だって、警察がくるまで時間あったし、毒物をわざわざあんなとこに隠さないでしょ?動かないでって、私確かに言ったけど、気分悪いふりしてトイレにいって流せばそれで証拠隠滅じゃん」
「へぇ。猿並の知能はあるんだ」
「おちょくらないでよ!…それにっ、私は心亜だって怪しんでるんだからね!?なんだか…あの人がこうなることを知ってたみたいだったし」
「ああ、知ってた。私は知ってる。殺したい人間が殺せる席に座っていた。ただそれだけ」
「…?」
心亜はそう言うと、仁王に近づいて行った。
後ろにいた心亜に驚いていたようだったけど、何か耳打ちされたのか、奴の目が一瞬光った。
二言三言交わすと、心亜はにやっと笑い、仁王はため息をついて、二人ともその場を離れた。
つづく