バトロワ2

暗い放送室。電気はつかない。
数十台あるモニターから光がたれ込み、斜め前にいる心亜の顔が青白かった。
そして机の上に置かれた黒いノートパソコン。

「……何じゃこれ」
「何だと思う?」

そう言って心亜は足を進めた。
パソコンの前にたち、パソコンの電源を入れる。
画面から光が放たれ、心亜の顔が白くなった。
怖いもの知らずのこの女はマウスを掴みパソコンを勝手にいじくっている。

緊張感がなさすぎじゃ。
殺しあいをしてるというのに、まるでこいつは死ぬことを恐れていない。
現に今もこうして俺と二人きりだというのに。
俺がお前を殺すかもしれないのに。

「…仁王」
「!」
「私、今から犯罪行為するから」
「は?」
「ハッキングだよ。立派な犯罪行為だ」

そう言うと心亜は椅子に座り、カチカチとキーボードを叩く。
さて、さっきの告白を俺にする必要があったのだろうか。

「心亜、何する気じゃ」
「ハッキング。このパソコンの持ち主のデータを洗いざらいはかせてもらう」
「!できるのか?」
「さぁね。久しぶりにやるし…」

そんなことを口にした心亜だったが、会話中も手の動きは変わらない。
画面にはわけのわからないアルファベットの羅列や数字、記号なんかがものすごい勢いで画面から消えてはまた打たれ。
その間、心亜は手元を見ずに画面だけを見ていた。
それを見ていても何がなんだかわからない。心亜に頼るしかない俺は背後に警戒しながら、しきつめられた無数のモニターを見つめる。
縦5、横7。全部で35。
校舎の至るところにあるわけではないらしい。

それを端から見ていると、右から4番目のカメラに、赤也がいた。
真っ赤。
鉈が胸に突き刺さって死んでいる。
目をそらすことはできなかった。
唇を噛み締めた。

「…クソッ、エラーか」
「!」

心亜の呟きが耳に入って、また目線を心亜に戻した。

「……お前は、怖くないのか」
「は?」
「死ぬかもしれない、殺さなきゃいけない状態、状況で。俺と一緒にいて怖くないのか」

俺がそう言うと心亜はパソコンから目を離し、俺を見上げる。

いつもと同じ不適な笑みで。

「…つまり君は、自分はこんなに怯えているのに私がなんでこんなにも冷静沈着で無頓着でこんなことをしているのか意味がわからない、ってことか」
「ッ…」
「私はただ生きたいだけだよ」

ニヤリと笑った。

「たとえ他の奴らが全員死んでもね」
「――!」

俺はポケットに隠したナイフを心亜につき出したが、遅かった。
俺より何秒も早くに、心亜は立ち上がり俺の額に、真っ黒な拳銃の銃口をあてた。

「……ッ!」

けらけらと可笑しそうに笑う。

「遅い。君ほんとにやる気あんの?」
「…!」
「このゲームに義理だとか、そんな弱いものあっちゃいけないんだよ。それがあったから、あの子は殺された。違う?」

カチリ、と不吉な音がした。

「手を伸ばさないと私の首を切れないそのサバイバルナイフと、いつでもぶっぱなせる銃。どっちが勝つか試す?」
「……お前に、殺しができるはずないじゃろ」

額に銃が強くあてられた。

「んふふ残念。そういうちっせー脅しには乗れないかな」
「ッ…」
「…だからあんま私を怒らせんなよ。私についてきた身なら私に逆うことはするな」
「…」
「じゃあこういうのはどう仁王くん。今ここでわけもなく殺されるか、私のために殺されるか、それとも、彼らのために殺されるか。どれか選べ」

無表情で言った。

「いい?テニスと同じなんだよ。これは"殺人ゲーム"だ。そう、いわゆる"ゲーム"。ゲームならルールがあって目的があって、勝者がいて敗者がいる。そして、"ドロー"がある」
「………」
「テニスにルールがあって、このゲームにもルールがある。テニスは悪天候で試合ができないときなんかは"中止"になる。つまり"試合をなくす"ことができる。だから、この"ゲーム"も"なくす"ことにすればいい」

そう言って、拳銃を持った手をおろした。

「これが私が生きる手っ取り早くて、負担が少ない方法なんだよ。だからと言って負け惜しみする気はない。いつだって殺せる」
「………今なら、殺せたんじゃなか?」
「あー無理無理。だってこれ」

素早くまた額に銃口をあてられ、目を瞑ってしまったが、聞こえたのはカチッ、という音だけ。

「……は?」
「オモチャだから」

にっこり笑って言った。



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