まどろみから墓場まで
「イザ兄!」
「うん?」
「死ぬのって怖い?」
いつの日だったか、双子の妹たちにそんな質問をされた。
当時の俺は青春真っ盛りで、誰もが一度は考える自己の生死について悩むのが楽しくて仕方がなかった。
そんな俺は、妹たちにこう答えた。
「死ぬ直前になればわかるよ」
“生きてる内にそんなことを考えるのは時間の無駄だから死ぬ瞬間まで精一杯生きろ”と付け加え、俺はその場から逃げた。
そう、つまり俺が自己の生死について考えていたあの時間こそ、俺の人生の中で一番無駄だと言える。
長い時間考えたのに、答えは簡単だった。
それが正解かは、定かではないけど。
「心亜」
「うん?」
「死ぬのって怖い?」
俺がそう問うと、心亜は不愉快だと言わんばかりに鼻で笑った。
「なにそれ。馬鹿にしてる?」
「まさか。興味本意だよ」
「じゃあその質問は、私について?それとも一般?」
「どちらでも。心亜の好きなように答えて」
そう促せば、心亜はそうだなぁ、と言ってソファーに倒れた。
「私はねぇ、別に怖くなんかないよ」
「…へぇ」
「でも結論言えば、生きてる内にそんなことわかんないよ。死ぬ間際で怖いとか安らかとか、わかるんじゃない?」
「うーん、やっぱ俺と心亜は似てるね」
「いや、似てないよ。だって兄さん、死ぬの怖いでしょ?」
「…」
言葉が出ない俺を見て、やっぱりね、と心亜は言った。
「怖いか楽しみかなんて、死ねばわかるよ。だからそれまで、楽しく生きてりゃいいんじゃない?」
艶やかに笑う俺の妹。
妹たちの言葉を反芻する俺。
少し経って、俺はようやくいつものように笑えた。
いやいや、やっぱり俺たちは似てるよ。
だって心亜も、怖がりだもんね。