突撃インタビュー
僕は冴えない眼鏡男子。立海一年生。新聞部の一員。
これくらい言っておけば困ることはないと思うので、話を進めさせてもらいます。
えー、じゃあ一応僕の名前も。広末といいます。皆から「ひろすー」とか呼ばれてるんですけどまぁそれは置いときます。
で、僕が何をするかというと、今度発刊する新聞にですね、ある人物を載せることになりまして。
その人を取材して来いと言われ、今に至ります。
何で一年の僕が三年生の教室に行ってわざわざインタビューしてこなきゃならないんですかと部長に言ったら「知らない下級生なら相手も油断するから」とか抜かしやがりましてね。
いやそれお前、怖いだけじゃねーかと言いたいのを我慢して、ノコノコやって来たわけです。
なんか結構ヤバい人らしい。あの先輩たちのビビり具合からして。
くそー、なんでそんな人を今回取材しようと思ったんだよ。
意味が、意図がわからない。
うわぁこうしてる間に三年生の教室来ちゃったよ。
なんかその人物、確かえーと、折原先輩は既に手配したとか言ってたから、まぁ大丈夫。
っていうか、何で折原先輩も取材をオーケーしたんだろう。
僕ですらやる気がないのに。
「失礼しまーす…」
恐る恐る扉を開けると、ああいました折原先輩。オレンジ色のパーカー着てるって言ってたから多分間違いない。
「や、いらっしゃい」
折原先輩はにこりと笑い片手を振ってお出迎え。
気が抜けたのがわかった。なんだ、結構優しそうな人じゃないか。見た目は。
教室には先輩しかいなかった。それはそうか、放課後だし。
初めて入る三年生の教室。独特な雰囲気みたいなものがある。
「ここどうぞ」
先輩に促され、僕は先輩から二つ離れた席に座らされた。
これくらいの距離感が丁度いい。
緊張してシャーペンを落とした。
「…何年生?」
「えっ、ああ…一年、です」
「そう。あ、いいよ。聞きたいことは答えられる範囲で答えるから」
何となくイメージと違うので、びっくりした。もっとこう、不良っぽいのを想像してた。
いや、でもいつボロが出るかわかんないし、さっさと取材に入ろう。
「えっと…では質問させてもらいます」
メモ帳を開いて質問内容を纏める。
「!転校生なんですね…。前の学校では、どんな部活動に入っていましたか?」
「部活はやってなかったなぁ。面倒だったから」
「学級委員とかは?」
「ナイナイ」
確かに、学級委員になるような柄の人ではない。って、こんなの聞いてどうすんだろ。メモメモ。
「…えと、前の学校で、どのような立ち位置にいましたか?」
「中の下くらい」
「すみません、もっと具体的に」
「一部の奴らから嫌われてた、かな」
「……」
なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったようだ。一応メモしとこう。
「ああ、気遣わなくていいよ。君が悪く思う必要はないから」
「…すみません」
笑顔が怖い。
なるほど、先輩たちが嫌がる理由がだんだんわかってきた。
「次行きます」
「うん」
「4月の学力テストでは見事、英語が満点で全国第一位……第一位取ったんですか!?」
「ん?ああ、アレね。英語だけでしょ、だって」
「そりゃそうですけど…」
なにこの人すごい。
ハイスペックな人だなぁ。英語満点って、確かにマークシートだったけど、満点はないって。
「それで…留学経験だったり帰国子女だったりするのかどうか、と」
「……いや、英語は独学で覚えただけだから」
「そうなんですか。すごいですね」
メモメモっと。
その後も質問は続き、折原先輩は一つ残らず答えてくれた。
案外優しい人だ。あ、次で最後だ。
「えっとですね、我が校は部活動が盛んで、特に男子テニス部は大会でも素晴らしい結果を納めています。また人気の高い部活です。ご存知でしたか?」
「いや、知らないな」
「あ、転校生ですもんね。では幸村部長なんかも知りませんか?」
「幸村…?」
男子テニス部の部長です、と言うと、先輩は目を細めた。
「知らないな…。男子テニス部とか、まだ関わったことないから」
「このクラスだと、仁王先輩や丸井先輩なんかがテニス部です」
「!…確かにテニスラケット持ってたね。ふーん、テニス部か…」
「…あの、まさか興味無いとか?」
「無いよ。テニスとかやったことないし」
「いえ、違くて。あの、テニス部に興味無いんですか?」
「テニス部?何で?そんなにすごい部活なの?」
有名ですよ、イケメンばっかって。幸村部長については、一年の僕の耳にも入っている情報だし。まぁ部活の先輩たちからの受け売りだけども。
折原先輩は全く興味が無いらしい。本当に変わった人だ。
その理由を説明すると、先輩は楽しそうに聞いていた。
「じゃあ、女子はよってたかってテニス部を支持してるわけだ。ふーん。馬鹿馬鹿しいね」
「ええ本当に……え?」
「くだらないなー。マネージャーの子をいじめるとか、それを見てみぬフリする部員とか。だいたい、女子がうるさいのは自分たちのせいなんだから、うるさい子全員マネージャーにしちゃえばいいんだよ。そしたらほら、仕事させて、うるさくなくて、一石二鳥」
「た、確かに…。し、質問に戻ります。男子テニス部についてどう思いますか?」
「えー、あー…楽しそう、かな?」
今の話で楽しそうだと思うって、どうなんだろう。
…なんだかちょっと怖いな、この人。
目の前の折原先輩を盗み見すると、本当に楽しそうに笑っていた。
折原心亜先輩と別れ、部室に戻った。
それからだ。あの折原心亜先輩が転校初日、事件を起こしたことを知ったのは。
***
30万リク「ヒロインに新聞部がインタビューする話」