臨也と夜遊び

「兄さん、いる?」
「!ああ、いるよ」

奥の部屋から心亜がきた。
寝ていたのか服がはだけている。

「…」
「どうかした?嫌な夢でも見た?」
「…いや、目が覚めたら暗かったから、なんか変な気持ちになった」
「えっ、遠回しに抱いて宣言!?」
「違うよ。そういう変な気持ちじゃない。…今何時」
「9時半だね。まさか学校から帰ってきてすぐ寝たの?」
「…うん」
「もう眠くないんじゃない?」
「あー、うん…」

ボスッ、とソファーを陣取りそばにあったクッションに顔を埋めた。
絵になるなぁ。あ、パンツ見えそう。
椅子から立ち上がって俺もソファーに座った。もちろん、心亜の隣。

「…なに」
「別に?隣に座っただけだよ」
「…そういう目してるときって、大概何か企んでるよね、兄さんって」
「なんかむず痒いな、その兄さんって」

未だに慣れないその呼び名。あと何年、俺はこの子の兄でいられるんだろう。

「兄さんは、兄さんだろ」
「確かにそうだけどさ。普通に名前で読んでほしいよ」
「嫌だよ」
「つれないなぁ」

右手を手に取り、優しく握った。
綺麗な白い手だ。まだ、汚れを知らない――いや、それは違うか。

「…なに。手ばっかじろじろべたべたと」
「いいじゃないか。手ぐらい。っていうか手しか触らせてくれないだろ心亜は」
「まぁ、そうだけど」

小さく笑う。
その笑顔もろとも、奪ってやりたい。俺のものにしてやりたい。
好きで好きで、たまらない。
なぜこの思いが届かないんだ。
ねぇ、わからないの?俺はもう、この関係に飽き飽きしてるんだ。
心亜心亜心亜――…。

でも、それは届かない。

「………ムカつく」
「は?」
「ねぇ、心亜は俺が好き?」
「…なに?それ」
「…真面目に答えてよ」

はぐらかそうとする心亜を逃すべく、目をあわせる。
すると綺麗な、少し青みがかった黒い瞳が俺の目をとらえた。

「……好きだよ。嫌いじゃない」
「…でも愛してはいないんだろ」
「…兄さんに愛してるなんて言ったらそれこそ何されるか。わかったもんじゃない」
「俺は愛してるもん」

そう言うと、心亜は呆れた顔をした。

「人間をだろ?」
「違う。折原心亜をだ」

ぎゅ、と強く手を握ると少し顔が歪んだ。

「好きすぎてつらいよ」
「…知らないよ、そんなの」

顔をそらされた。胸が痛む。

心亜にとって俺は「兄」でしかない。それ以外で俺を見ていない。だからもう、いっそ。

キスでもして、わからせてやろうか。

「夜遊びに行く?」
「え」
「池袋に。寿司でも食べに行こうか」

そんな邪念を悟られないよう、俺はソファーから立ち上がった。

兄妹なんてやめてしまいたい。
何度もそんなことを思った。でも結局、拒絶させられたくないからそんなことができやしない俺は

なんなんだか、わからないや。


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