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先程心亜は予定がただ狂いになったと言ったが、悪い方向に転がったわけではなかった。
むしろ感謝していた。楽しい。ただそれだけだった。

迫害だとかいじめだとか、何ら不満はない。怪我だって痛くも痒くもない。泣く?馬鹿言え、誰が泣くか。
飼い主にも噛みつく犬。その犬があの女だとしても所詮犬は犬。

人間には、心亜には敵わない。

「…馬鹿な女。可哀想に」
「それ、まんま自分のことやろ」

校舎の陰から聞きなれた声がした。

「あっれー忍足くんじゃん。元気?」
「元気やで」
「へー」
ニヤニヤと笑うが、忍足は表情一つ変えない。
多分心を閉ざしているんだろう。

「またひどいことになっとんな。学校くんなや」
「それじゃ負けたも同然だ」
「負けもなにも、もう自分は負けとるやろ。鏡見てみ」

鼻で忍足は笑った。心亜も鼻で笑う。
何を粋がったように語っているんだか、この丸眼鏡は。
ちなみに、折原心亜には本当に味方はいない。この学園では。

味方に見えたとしても、それは化けの皮。

それを彼女は承知している。
そしてあと少しで、彼女自身も化けの皮をはぐ時がくるのだ。

「すまんな、ウチのマネージャーが」
「随分お茶目だね」
「そこが可愛いんやろ?」
「あはは、眼医者にでも行ったら?」
「…自分強いなぁ」
「まぁね」
「…でも、いつかはそんなもん壊れるで?」
「そうかもね」

そして忍足は心亜の目の前に立ち、右手を差し出した。

「……せやから、俺に守らせてくれへん?」


ピピピピピピ


無機質な音が鳴った。
心亜はスカートのポケットにいれていた携帯を取りだし、忍足そっちのけで耳にあてる。


「もしもし、うん。待ちくたびれちゃった。…そっか、ううん、いいよ。これでようやく暴れられる。…私も大好き」

電話を切り、その場に立ち上がる。
動揺している忍足を見上げ、いつもの、いや前と同じように笑った。

「本当に?とでも言うと思った?忍足くん」



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