2/5先程心亜は予定がただ狂いになったと言ったが、悪い方向に転がったわけではなかった。
むしろ感謝していた。楽しい。ただそれだけだった。
迫害だとかいじめだとか、何ら不満はない。怪我だって痛くも痒くもない。泣く?馬鹿言え、誰が泣くか。
飼い主にも噛みつく犬。その犬があの女だとしても所詮犬は犬。
人間には、心亜には敵わない。
「…馬鹿な女。可哀想に」
「それ、まんま自分のことやろ」
校舎の陰から聞きなれた声がした。
「あっれー忍足くんじゃん。元気?」
「元気やで」
「へー」
ニヤニヤと笑うが、忍足は表情一つ変えない。
多分心を閉ざしているんだろう。
「またひどいことになっとんな。学校くんなや」
「それじゃ負けたも同然だ」
「負けもなにも、もう自分は負けとるやろ。鏡見てみ」
鼻で忍足は笑った。心亜も鼻で笑う。
何を粋がったように語っているんだか、この丸眼鏡は。
ちなみに、折原心亜には本当に味方はいない。この学園では。
味方に見えたとしても、それは化けの皮。
それを彼女は承知している。
そしてあと少しで、彼女自身も化けの皮をはぐ時がくるのだ。
「すまんな、ウチのマネージャーが」
「随分お茶目だね」
「そこが可愛いんやろ?」
「あはは、眼医者にでも行ったら?」
「…自分強いなぁ」
「まぁね」
「…でも、いつかはそんなもん壊れるで?」
「そうかもね」
そして忍足は心亜の目の前に立ち、右手を差し出した。
「……せやから、俺に守らせてくれへん?」
ピピピピピピ
無機質な音が鳴った。
心亜はスカートのポケットにいれていた携帯を取りだし、忍足そっちのけで耳にあてる。
「もしもし、うん。待ちくたびれちゃった。…そっか、ううん、いいよ。これでようやく暴れられる。…私も大好き」
電話を切り、その場に立ち上がる。
動揺している忍足を見上げ、いつもの、いや前と同じように笑った。
「本当に?とでも言うと思った?忍足くん」
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