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その日彼女は屋上にいた。

「…何か用?」

そんな彼女を訪ねにきた跡部景吾は警戒心を出せずにはいられなかった。
だが、今日ここで決着をつけなければいけない理由が、彼にはあった。

「…美咲についてだ」

跡部がそう言うと、心亜は不適に笑った。
その態度が気に入らなくて殴りたくなったが、それをしてしまえば全て水の泡になってしまう。
跡部は拳を握った。

「……俺たちは、どうなってもいい。でも、美咲だけはやめろ。あいつは関係ない」
「……君ってもしかして、好きな奴のためなら死ねるってクチ?」
「あ?」
「うーんそれは面白い。好きな奴のために、自分たちに矛先を向けろってか。いやぁ実に滑稽滑稽」
「……」
「でも実際は違う」
「!」

跡部の肩が揺れた。心亜はそれを見て鼻で笑った。

「花園美咲を使って自分たちも助かりたいだけ。私がそんなことさせると思ってるなら、疑うことを覚えたほうがいい」
「……」
「反論無し。君って結構弱いよね」

ギロリと跡部は睨んだが、心亜は笑うだけだった。

「篠崎が黒幕だってのはわかってんだ。さっさとあいつに自白させろ」
「無理だよ。彼女学校辞めるんだって」
「なっ…!?」
「ざんねーん。切り札は無くなった今、最後の砦は私と花園美咲だけ、だね」
「ッ…!オイ!真面目な話だ!俺たちは…どうなってもいいんだよ…!美咲だけは、あいつだけには手を出すな!」
「つまり、彼女を助けろと」

言い返せない自分がいた。言い返す理由もなかった。
跡部はそのためにここに来たのだから。

心亜は珍しく面倒臭そうため息をつき、腕組みした。

「…べっつにいいけどさぁ。君、自分今かっこいいとか思ってる?自分を犠牲にして誰かを助けたら、自分にいつか見返りがくると思ってる?」
「……」
「漫画じゃないんだからさ、そんなもんないよ。現実は君が思ってる以上に残酷で、人間は欲深く、自分が可愛いんだから。言っとくけど私は君たちを助けたくないから助けない」
「ッ…!」

まさにその通りだった。心亜の言った前者も後者も全て本当のこと。所詮人間は他人に厳しく自分に甘い。
それをわかっているのだ。

今から彼女は、それを証明する。

「でもまぁ、賭けをしようじゃないか」
「!…賭け?」
「花園美咲が、君たちを裏切らなかったら私は君たちも花園美咲も助ける。だが、彼女が君らを裏切ったら――その時はどんな手を使ってでも、彼女を助けてあげる。彼女を助けるなら君たちはどんなことされてもいいんだよね」
「…」

跡部には、その言葉の真意がわかっていた。
つまり、自分たちがまた元通りになるかそれとも、地べたを這いずるか。
一世一代の賭けだった。

「どうする?ん?」
「……わかった…」

跡部景吾はそう言うしかなかったのだ。
最悪なこの少女は待ってましたと言わんばかりの声音で言った。

「そうこなくっちゃ」


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