高校に入ってからバイトを始めた。
やる前はもう楽しみで楽しみで仕方なかったけど、客は選べないわけであってすごく苛つくことが多い。私だけかもしれないけど。
コンビニ店員ってのは厄介な仕事だ。
あと人間関係もめんどくさい。
年上だけど後輩の大学生はヘマばっかしてるし、顔が怖いオッサンは物覚えが悪いし…。くそ、もう嫌だ。やめよっかな。アイス食べたい。
するとピンポーン、とチャイムが鳴った。客が来た合図だ。
「いらっしゃいませー」
入って来た客を見て、体が強ばったのがわかった。
あの帽子の男子は間違いない、中学の同級生だ。
ウゲェエエー!何で!?何で来るの!?しかもレジ今私しかいないし!
こういうのがあるから嫌なんだよコンビニは!
同級生、もういいや名前は唐沢くん。唐沢くんは私の声に気付き、私を見た。あ、笑った。笑われた!?何笑ってんだ!
「よう、久しぶりだな」
「あー…うん」
私のレジに並ぶ。ガムを一つ持って。
「ひ、120円です」
「まけろ」
「無理言わないでよ!」
冗談だ、と言って財布から500円玉を出した。
「ここのコンビニ、女ってお前しかいないのか?」
「え、私の他にもいるけど」
「高校生?」
「いや、おばさんが3人」
「フーン…。会長が言ってた可愛いコンビニ店員って、お前か」
「ええ!?何それ!?」
お釣りとレシートを渡すと唐沢くんはプッと笑った。
「おばさん3人の中にいたら苗字も嫌でも可愛く見えるってモンか」
「なっ、失礼だなっ!」
「俺は茶髪のお前より、中学の時の黒髪のお前のほうが可愛いと思う」
「は?」
「ちょっとペン貸せ」
唐沢くんは私の胸元を指差し言った。胸ポケットにあるボールペンを渡したら唐沢くんはレシートの裏に何か書き始めた。
いやそれより、さっきのは何だ唐沢くん。告白?ねぇ告白?勘違いしちゃうよ私。
「その様子だと、まだお前彼氏いないらしいな」
「い、いないよそんなの…」
「これ」
と差し出されたのは、さっきのレシート。
「髪、黒く染め直したらここに連絡しろ」
言われて気づいた。レシートの裏には数字が書き綴られている。
「…これは?」
「俺のケー番。意味わかるだろ」
「……」
無言で頷いた。
「じゃ、待ってる」
「あ……ありがとうございました」
唐沢くんが店を出た。
どうしよう、ほんとどうしよう。とりあえず、髪を黒く染めることにする。
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